土曜日含む三連休の中日は肌寒い一日。
ほんの少し前までは「いつまでも暑いですね」と言い合っていたのが嘘のようだ。
さて、本日取り上げるのは、このところマスコミを騒がせている「埼玉県虐待禁止条例」についてである。
先生方には今さら説明するまでもないが、条例は地方公共団体が定める自主法であり、いわばローカルルールである。
その制定根拠は日本国憲法第八章「地方自治」第94条にある。
(地方公共団体の権能)
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
「条例」は埼玉県公立入試・社会でも何度か出題されているので、これを機に受験生に徹底しておくのも良かろう。
◆マスコミ特有の扱い方
さて、「埼玉県虐待禁止条例」であるが、これを報じた新聞見出しを見てみよう。
「生活できない」 埼玉県の“子供留守番禁止条例案”に批判相次ぐ(毎日新聞)
子どもの「短時間の留守番」も虐待に 埼玉の条例改正案、委員会可決(朝日新聞)
子どもだけの留守番・外出禁止 埼玉・自民党県議団が条例案 順守困難の声も(東京新聞)
読者の興味をそそるような刺激的な見出しを付けたい気持ちは分かる。
が、毎日新聞の「子供留守番禁止条例案」はちょっと酷い。
法や条例に勝手にレッテル貼りするのはマスコミがしばしば使う手だが、こういう時ほど読者は警戒して当たらなければならない。
今回、新たに条例が作られたと誤解しそうだが、審議されているのはすでにある条例の一部改正案である。
「埼玉県虐待防止条例」は、平成29年に制定されている。
改正案は以下に記されている。
(埼玉県議会9月定例会第25号議案)
埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例
短いものなので原文をお読みいただきたいが、次のように記されている。
第六条の二 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない。
条文中「児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)」の部分は小学校3年生までと読み替えることができる。
第六条の二の2 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日を経過した児童であって、十二歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置(虐待に該当するものを除く。)をしないように努めなければならない。
条文中「児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日を経過した児童であって、十二歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)」は小学校4年生から6年生までと読み替えることができる。
つまり、小学校3年生までは「放置をしてはならない」(禁止)、4年生から6年生までは「放置をしないように努めなければならない」(努力義務)という違いがある。
「子供だけの留守番はダメ」「子供だけで公園で遊ぶのはダメ」「子供だけでおつかいに行かせるのはダメ」
これらは委員会質疑や議員に対する個別取材などから拾ったものだと思うが、条例自体には、このような語句、表現はない。
ただ普通、条例本文まで確かめようとする人はいないから、とんでもない条例が出来ると勘違いしてしまう。
その結果、深刻化する児童虐待問題から離れ、子育て問題、働き方問題という方向に議論がずれて行ってしまう。
◆違和感を感じる部分
マスコミはあまり報道しないが、改正案の中に次のような条文がある。
第六条の3 県は、市町村と連携し、待機児童(保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための施策その他の児童の放置の防止に資する施策を講ずるものとする
放置の問題にからめて、突然待機児童問題を持ち出している。
ここで待機児童問題?
放置と無関係とまでは言えないが、虐待禁止条例に含むのにはいささか違和感がある。
が、含めた以上、何かしらの意図があるのだろうから、これを受けて県や市町村がどんな施策を講じるかは注目しておく必要がある。
◆社会全体で見守る体制づくり
改正案の一つに通告、通報義務がある。
第八条の2 県民は、虐待を受けた児童等(虐待を受けたと思われる児童等を含む。第十三条及び第十五条において同じ。)を発見した場合は、速やかに通告又は通報をしなければならない。
この部分も、罰則規定こそないが、通告や通報が義務なのかと反発が見られるところだ。
通告や通報については改正前の条例にも盛り込まれている。
第十三条 県は、早期に虐待を発見することができるよう、市町村と連携し、虐待を受けた児童等(虐待を受けたと思われる児童等を含む。以下この条及び第十五条において同じ。)を発見した者にとって通告又は通報を行いやすい環境、虐待を受けた児童等にとって届出を行いやすい環境及び虐待を受けた児童等の家族その他の関係者にとって相談を行いやすい環境の整備に努めなければならない。
第十三条の2 県は、市町村と連携し、虐待を受けた児童等に係る通告、通報及び届出を常時受けることができる環境の整備に努めなければならない。
これを受けて、埼玉県は虐待通報ダイヤル「♯7171」というものを開設している。
埼玉県虐待通報ダイヤル「#7171」-虐待ない、絶対ない社会へ-
実は私も初めて知ったのだが、そういうシステムがあったのだ。
条例には、この際、こうしたシステムをさらに周知徹底しようという意図があるのかもしれない。
自分には関係ない関わりたくない、思い過ごしかも、と思わずに通報すれば(もちろん匿名可)、悲劇が未然に防げる可能性がある。
そう考えれば、やや強めの文言だが、それなりの効果は期待できるかもしれない。
【追記】
10月10日(火)、改正案取り下げが発表されたので、それを受けて続編を書きました。
埼玉県虐待禁止条例改正案取り下げ、これが正解と思う理由
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