マーケティングの世界には「イノベーター理論」というものがある。新しい商品やサービスが世の中に広がっていく際、人々を採用時期の早い順に、「イノベーター」、「アーリーアダプター」、「アーリーマジョリティ」、「レイトマジョリティ」、「ラガード」の五つに分類する考え方である。
この考え方は、高校受験における学校選びにも応用できるかもしれない。
もちろん高校は新製品ではないし、受験生の行動をそのまま5分類できるわけでもない。ただ、学校選びを始める時期には明らかな個人差がある。中学3年になってから本格的に動き出す生徒もいれば、中学1年、2年の段階から高校に関心を持ち、文化祭や説明会に足を運ぶ生徒もいる。
注目したいのは後者である。
◆早く動く生徒は、単なる「早熟な受験生」ではない
イノベーター理論(ロジャースの説)でいう「アーリーアダプター」は、新しいものに比較的早く関心を示すだけでなく、周囲に対して影響力を持つ「オピニオンリーダー」になりやすいとされる。
高校選びでも似たことが起きている可能性はある。
中1、中2のうちから高校を調べ、学校説明会に参加し、「あの学校は面白かった」「あの高校はこんなことをやっている」と友人に話す生徒がいる。最初は一人の関心だったものが、友人や保護者を通じて少しずつ広がっていく。
しかも、こうした生徒は入学後も学校にとって貴重な存在になる可能性がある。クラスで、部活動で、生徒会で、自ら考えて動き、周囲を巻き込みながら活動する。もちろん全員がそうなるとは限らないが、学校として「ぜひ来てほしい」と考えるタイプの生徒ではないだろうか。
数で言えば市場全体の一部にすぎない(おそらく1割か2割程度)。しかし、人数以上の影響力を持つ層なのである。
◆学校広報は中3メインのまま
問題は、現在の高校募集の仕組みが、こうした層を十分に意識していないことだ。
合同説明会や進学フェアの多くは「受験生と保護者」が主対象で、実質的には中学3年生向けである。各高校が開く学校説明会も、入試制度、選抜基準、進路実績、過去問題対策など、中3生に必要な情報を中心に構成されている。
もちろん、それ自体は必要である。
しかし中1、中2の生徒がそこに参加しても、与えられる情報は中3生とほぼ同じであることが多い。
彼らが今知りたいのは、細かな入試制度ではない。
「どんな高校生活が送れるのか」
「どんな生徒がいるのか」
「どんな授業や行事があるのか」
「この学校なら何に挑戦できるのか」
そうした未来を想像するための情報である。
◆中1・中2向けは「早い受験対策」ではない
そこで必要になるのが、中学1・2年生、さらに言えば小学生までを明確に対象とした合同説明会(進学フェア)や学校説明会である。
ここで大事なのは、中1・中2生に早くから受験競争をさせようという話ではないことだ。
むしろ逆で、受験学年になる前だからこそ、偏差値や合格可能性から少し離れ、幅広く学校を見ることができるのだ。普通科、専門学科、共学、男子校、女子校、公立、私立と、先入観なく見比べる余裕もある。
学校側も「今年受けてもらう」わけではないから急ぐことはない。
まず知ってもらう。
興味を持ってもらう。
好きになってもらう。
広告や広報の王道を行けばいいのである。
◆アーリーアダプターを育てる広報へ
高校募集では、どうしても中3生に目が向く。だが、多数派が動き始めてから広報を始めるだけでは遅い。
その前に動いている生徒がいる。
彼らを見つけ、彼らの好奇心に応え、学校について語りたくなるような体験を提供する。
中1・中2向け説明会とは、単なる「早期募集」ではない。
未来のオピニオンリーダーとの出会いの場を作るのだ。
すでに書いたが、これからの学校広報は、目の前の志願者を集めるだけではなく、数年先の志願者を育てる広報でなければならない。
その意味でも、これからの学校説明会や進学フェアには、「受験生になる前の生徒」を主役に据えた新しい形がもっとあっていい。
◆一部の人気校だけの話ではない
ここまでお読みになって、「それは進学校や地域の人気校だからできる話だろう」と思われた方がいるかもしれない。
あるいは、「うちは専門高校だから」「毎年、定員確保に苦労している学校だから」と、自校には当てはまらないと考えた方もいるだろう。
しかし、私はむしろ逆ではないかと思っている。すでに多くの中学生から知られ、毎年安定して志願者が集まる学校だけが、早期広報を必要としているわけではない。知名度が十分でない学校や、従来のイメージだけで敬遠されやすい学校こそ、中学1・2年生の段階で一度見てもらう意味は大きい。
受験学年になれば、どうしても偏差値、通学距離、倍率、合格可能性といった現実的な条件が前面に出る。その前の段階なら、「こんな学びがあるのか」「こんな仕事につながるのか」「思っていた学校と違う」と、新しい発見をしてもらえる余地がある。
特に専門高校などは、学校名や学科名だけでは実際の学びが伝わりにくい。だからこそ、早い時期に実物を見せ、体験してもらうことが重要になる。
アーリーアダプターを意識した広報は、一部の強い学校のための戦略ではない。学校の種類や現在の人気度にかかわらず、考える価値のある広報戦略なのである。
今回は、中学1・2年生など早くから学校選びを始める層に目を向ける必要性について考えた。次回以降は、では実際に彼らに何を見せ、何を伝えるべきなのか。また、進学校、普通科中堅校、専門高校などでは、その内容をどう変えるべきなのかを考えてみたい。

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