前回(昨日)の続き。後編である。
 今般の公立入試改革には十分な合理性があると考えるが、ここに私立入試を重ね合わせると別の問題が見えてくるというのが後編のテーマである。

前編:埼玉県公立入試改革は、何を解決しようとしているのか【1/2】

◆公立用と私立用、二つの調査書

 これまで埼玉県内の多くの私立高校は、中学校が作成する公立高校提出用の調査書を準用してきた。
 ところが令和9年度から公立用調査書は大幅に簡素化される。部活動、資格、出欠など、私立高校がこれまで選考や個別相談の材料として使ってきた情報がなくなる。

 そこで私立側では、従来の公立用に近い独自の標準様式を用意し、その提出を求める学校が増えている。

私立高校調査書(私学協会標準様式)(埼玉県私学協会サイトへ)

 こうなると、公私を併願する生徒について、中学校側は公立用と私立用、二種類の調査書を作ることになる。
 公立用調査書を簡素化して負担を軽減したはずなのに、学校現場では「二重調査書」が発生する。
 何とも皮肉な話である。

 ただし、これは誰かが悪いわけではない。
 県教委には公立入試を合理化したい事情がある。私立高校には、入学者を選ぶために必要な情報を得たい事情がある。そして中学校は、その両方に対応しなければならない。
 それぞれの立場では合理的な判断が、全体で見ると新たな非効率を生んでいるのである。

◆本当に必要な情報は何か
 では、どうすればいいのか。
 そこで、私立高校が必要とする情報を一度分解してみる。
 たとえば資格取得や学校外の活動歴なら、個別相談などを通じて受験生・保護者から直接確認する方法がある。合格証や認定証、大会記録などを示してもらえばよい。
 そうすれば、そこまで中学校に証明してもらう必要はない。

 一方、簡単には本人申告に移せないものもある。
 代表的なのが欠席日数である。
 私立高校の推薦基準には、欠席日数について一定の条件を設けているケースが多い。ここは正確な学校記録が欲しいというのが私立側の本音だろう。

 だとすれば、評定は公立用調査書、資格や活動歴は本人から、欠席日数だけは中学校から簡易な証明をもらう、といった方法も考えられる。
 「欲しい情報があるから昔の調査書を丸ごと残す」のではなく、「その情報は誰から取るのが最も合理的か」を一項目ずつ考え直すのである。

◆「面接指導」も新たな負担
 そしてもう一つ、中学校の負担として忘れてはいけないものがある。
 面接指導である。

 これまでも面接を課す高校はあった。しかし、すべての生徒が面接を受けるわけではなかった。
 だが、令和9年度からは、公立高校を受検するすべての生徒に面接が課される。
 県としては、面接テクニックを競わせるつもりではないだろう。本人が自分の経験や考えを自分の言葉で伝えることが目的である。このことは県からも繰り返しアナウンスされているところであり、それでいいだろう。

 しかし、だからと言って、中学校として「何もしない」というわけにはいかないのが現実だ。
 自己評価資料の書き方を確認し、「My Voice」について説明し、受け答えや態度を確認し、少なくとも一度くらいは模擬面接を行う学校が多いだろう。
 これまで一部の生徒だけに行っていた指導を、今度は公立志願者全員に行う。
 これは明らかに新しい仕事である。

◆改革はここからが本番
 今回の改革について「負担が減った」「増えた」と単純に結論づけるつもりはない。
 大事なのは、制度変更によって現場で何が起きるかを見続けることである。

 公立用調査書は簡素化された。しかし私立用が増えれば二重作業になる。面接を導入すれば、その指導負担が発生する。
 ならば、私立高校は情報の集め方を見直す。県教委は中学校の面接指導が過熱しないよう、必要な準備の範囲を明確にする。中学校からも実際に生じた負担や課題を伝える。
 公立、私立、中学校、県教委。それぞれが自分の立場だけでなく、入試システム全体を見ながら少しずつ修正していく必要がある。
(今回は深入りしないが、埼玉の高校入試市場は東京を中心とする首都圏入試市場の一部である。受験生・保護者は、埼玉県の中で公立か私立かと選んでいるわけではなく、首都圏入試市場の中で学校選びをしている。そこは忘れてはならない視点だろう)

 改革は、制度を変えた時点で終わるのではない。
 現場で生じた新しい課題を拾い、それを一つずつ解決していく。
 そこまでやって、初めて改革は完成に近づくのである。