ちょっと気取ったタイトルを付けてみた。
 中身の薄さをカバーしようという魂胆だ。

 硤合憲三先生がノーベル化学賞を受賞された。
 日本人として何人目、化学賞では何人目、といった数字も報じられているが、私がまず思ったのは年齢のことである。硤合先生は1950年、昭和25年生まれという。私より一つ上である。
 もちろん、元々の頭の出来も、その後の努力の量も、私とは比較にならない。そこは十分承知している。ただ、同じ時代に生まれ、同じ国で、ほぼ同じ教育制度の下で学んできた世代ではある。

◆「詰め込み教育」の時代に育った世代
 私たちの世代が受けた教育は、今日ではしばしば「知識詰め込み型」などと呼ばれる。
 覚えることが多かった。漢字も公式も年号も、とにかく頭に入れろと言われた。
 では、あの教育が優れていて、今の教育が間違っているのか。
 そんなことを言うつもりはない。

 教育の方法や内容は時代とともに変化する。当然のことである。
 社会が変わり、技術が変わり、子供たちが大人になったときに必要とされる力も変わっていく。昔の教育をそのまま復活させればいいという話ではない。

 ただ、一つ考えてみたい。
 30年先、40年先、場合によっては50年先にノーベル賞を受賞する人は、いま小学校や中学校、高校の教室で学んでいる。
 もちろん、学校教育はノーベル賞受賞者を育てるためだけにあるわけではない。
 だが、将来、学問の世界で大きな成果を上げる人も、新しい技術を生み出す人も、社会のさまざまな分野で大きく貢献する人も、いま同じ教室の中にいる。
 その子供たちに、われわれは何を身につけさせておくべきなのだろう。

◆「正解のない問い」の前に必要なもの
 昨今の教育では、「正解のない問いに挑む力」という言葉をよく聞く。
 これは重要だと思う。
 社会に出れば、教科書に答えが載っている問題ばかりではない。
 むしろ答えのない問題、答えが一つではない問題、そもそも問題自体がまだはっきりしていない問題に向き合うことの方が多い。

 が、そこで一つ付け加えたい。
 正解のない問いに挑むためには、その土台として、膨大な「正解のある知識」が必要なのではないか。
 何も知らないところから、深い問いは生まれにくい。
 数学の基礎を知らずに高度な数学研究はできない。化学の基本法則を知らずに新しい化学現象を発見することも難しい。
 知識と思考力は対立するものではない。
 知識があるからこそ、「なぜこうなるのか」「本当にそうなのか」「別の説明はできないのか」という疑問が生まれる。
 知識を覚えることを古い教育と片付けてしまってはいけない。
 知識は思考するための材料、あるいは思考するための道具なのである。

◆疑問を脳内の保管庫にしまっておく
 もう一つ、昔と今とで大きく違うことがある。
 昔は、分からないことがあっても、すぐには答えが見つからなかった。
 図書館へ行く。本屋へ行く。百科事典を開く。先生に聞く。
 それでも分からないことはあった。

 だから、その疑問を頭の中の保管庫にしまっておくしかなかった。
 今日分からなくても、明日分かるかもしれない。
 数か月後、何かの本を読んだときに、「ああ、あのことか」と突然つながることもあった。
 つまり、疑問を長く持ち続ける必要があったのである。

 今は違う。
 分からなければ、その場で検索できる。
 さらに生成AIに尋ねれば、かなり難しいことでも瞬時に説明が返ってくる。
 これは素晴らしい進歩である。

 ただ、答えがすぐ手に入る時代だからこそ、「疑問を持ち続ける力」は意識して育てる必要があるのではないかと思う。

◆分からないままでも前に進む
 そしてもう一つ大切なのが、「分からないことがあっても前に進める力」である。
 学校の勉強では、一つ分からないところがあると、そこで止まってしまう子がいる。
 全部理解してから次へ進もうとする。

 だが、実際の学問や仕事は、それほどきれいには進まない。
 分からないことを抱えたまま次に進むこともある。
 途中までしか理解できなくても、とりあえず考え続ける。
 別の知識を得た後で、前に分からなかったことが理解できる。

 研究の世界などは、むしろその連続なのではないか。
 「分からない」という状態は失敗ではない。
 分からないものを抱えたまま考え続け、手を動かし、前に進む。
 その力は、これからますます重要になるように思う。

◆未来のために残しておきたい力
 教育は変わっていい。
 いや、変わらなければならない。

 ICTもAIも使えばいい。探究学習も協働学習も進めればいい。
 昔の教室へ戻る必要などまったくない。
 ただし、どれほど教育方法が変わっても、時代を超えて必要な力はあるはずだ。
 膨大な「正解のある知識」を蓄える力。
 簡単には答えの出ない疑問を持ち続ける力。
 そして、分からないことがあっても前に進める力。

 これらは、情報が簡単に手に入り、AIが答えまで示してくれる今だからこそ、意識して育てなければならない力なのかもしれない。