令和9年度からの埼玉県公立入試では全校で面接が実施される。
 これには「今なぜ面接か」と驚かれた方も多いだろう。
 ここ10年程の流れを見ると、面接実施校は徐々に減少し、実施するとしてもその重視度合いは低下する傾向にあったのだ。

 以下、令和7年度入試における普通科面接実施校である。
 数字は一次選抜において面接が占める割合である。
 面接点÷(学力検査・調査書・面接の合計点)

 なお、学校名太字は令和6年度入試において欠員募集を実施した学校である。

小川   16.7%
栗橋北彩 16.3%
妻沼   13.0%
白岡   10.6%
三郷   10.5%
蓮田松韻 10.3%
北本   10.0%
鴻巣女子 10.0%
上尾橘  9.9%
桶川西  9.1%
鷲宮   8.3%
川越初雁 8.0%
松伏   7.6%
庄和   5.6%
ふじみ野 5.6%
市立川越 5.6%
八潮南  5.5%
新座   5.3%
川口市立 5.3%
三郷北  5.1%
川口青陵 5.0%
草加西  5.0%
狭山清陵 4.8%
鳩ヶ谷  4.8%
宮代   4.8%
志木   3.5%
飯能   3.5%
新座柳瀬 2.9%
川口東  2.0%
※川口市立は普通科スポーツ科学のみ

 以上のように、一部例外(川口市立スポーツ科学、市立川越など)はあるが、面接を実施しているのは主に定員割れ校や低倍率校であることが分かる。
 また、偏差値的にも真ん中から下位であり、志願者の学力検査点や調査書点も低いと見られる。

 その一方、学校選択問題採用校をはじめとする学力上位校や高倍率校で面接を実施している例はない。
 全体で見ても普通科の3分の2の学校は選抜資料として面接が必要であるとは考えていない。

 こうした現実を見れば、今なぜ全校実施なのかと疑問に思われる方が多いのは当然だろう。

◆なぜ今、面接なのか
 令和9年度入試では調査書の記載事項が変る。
 特別活動の記録(生徒会活動や部活動)や、その他の記録(資格取得状況など)の記載欄がなくなる。
 端的に言えば、調査書は学習の記録の評定のみになる。出席日数欄もなくなる。
 これによって都市伝説のように囁かれる「内申書に(不利なことを)書かれる」という不信感は完全払拭される。

 しかし今回、調査書の記載事項がシンプルになったのは、部活動の地域クラブ活動への移行等により生徒の学校内外における活動が多様化してきたことが関係しているようだ。
 つまり、中学校側が生徒の学校外における活動が把握しにくい。これからますますそうなる。
 生徒にいちいち聞くしかない。しかし、それをそのまま記載するわけには行かず裏付けを取る必要がある。作業は膨大になるし、ここにまた不公平感や不信感が生まれかねない。
 であれば、いっそこの欄はなくしてしまおう。

 だが、ここにまたもう一つ問題があって、学校内であれ学校外であれ、生徒のさまざまな活動への参加状況や実績は何らかの形で評価してあげなければならない。そうしないと、学力オンリーの入試になってしまい、時代に逆行する。
 さあ、困った。
 
 そこで浮上したのが、「そうだ、面接やろう」。
 今まで調査書に書かれていたことは、直接本人から聞こう。
 それで課外活動なども評価に含めたことになる。
 ただ、そんなに長い時間はかけられないし、聞く方も聞かれる方もぶっつけ本番というのは辛い。
 では、あらかじめ台本を用意してもらい、それに沿って面接をしよう。その台本が「自己評価資料」である。

 以上は、私の推論である。

◆面接の影響はわずか
 これまで面接を実施してきた学校は、それなりの効果を感じているということだから、「新しい面接」にも一定の重みを持たせるだろう。

 これまで面接を実施せず、学力重視の選抜をしてきた学校が、急に面接重視の方向に転換するとは考えにくく、その重みは最小限度にとどめようとするだろう。少なくとも面接で一発逆転可能というような設計にはならないはずだ。

 全員に面接を課すが、面接で勝負の入試にはならない。

◆結局のところ対策が生まれる
 令和9年度以降の受験生は、面接の受け方を練習しなければならない。また、自己評価資料の書き方も練習しなければならない。

 学力検査はそのまま、調査書の評定はそのままであるから、何のことはない、入試対策が一つ二つ増えただけだ。
 もしかすると、この先学力検査へのマークシート方式導入などで記述問題対策が少し楽になるかもしれないが、負担が減りそうなのはそこだけだ。

 新たな制度は、さまざまな角度から考え抜かれたものであり、それはそれで評価できると思っている。
 ただ、結果として起こるのは、中学校や塾における対策である。
 今まで面接練習は実施校を受ける生徒にだけすればよかった。これからは全員に対し必要だ。そうしないと「うちの中学校の先生は何も指導してくれない」となる。もっとも中学校の先生としては、調査書を細々書く苦労から解放され、それと相殺されると考えることもできる。

 塾の方も、面接の受け方や自己評価資料の書き方を全員に指導しないと、こちらも「面倒見の悪い塾」となるので、何かしらやらなければならないだろう。別に追加料金を取ってやるならいいが、そうではない場合、コストが増え収支を圧迫するだけ。
 制度変更があれば、必ず対策の必要性が増すので商機(ビジネスチャンス)ではあるが、塾の先生方にはチャンスがピンチにならないようお気をつけいただきたい。