昨日のことだ。某証券会社の若者がやって来た。わが社が入っているビルがメインストリートに面していることもあり、各種営業マンがしばしば訪れる。
 朝の8時半に行っていいかと電話してきた。
 普通、9時過ぎだろう。
 学校は朝が早いので、あり得る話だが、企業間では9時以降という暗黙の了解がある。
 こいつ、相当追い込まれているようだ。

 証券マン「〇〇証券、〇〇と申します。一度お伺いしてよろしいでしょうか」
 「資産運用とか事業承継とか、興味ねえ」

 と、セールストーク先回りしてやる。
 中小企業のオヤジに持って来る話はこの二つだ。

 証券マン「それもありますが、他にもご案内したい件がありますので」
 「残念だがハズレだったみたいだ。次の人に電話しなさい」

 リスト片手にアポ取りの電話かけまくってるのは分かってる。
 私もサラリーマン時代に経験があるが、電話100件かけてアポ10件取れたら大漁な方で、もっと少ない。
 ただ、手当たり次第かけていれば数パーセント引っかかるのも事実だから、かけた数がものを言う。
 だから、これはダメだと思ったら、さっさと見切りをつけて、次に移ったほうがいい。
 しかし、この若者、食い下がって来る。

 証券マン「ご挨拶だけでも、是非」

 出た。アポ取り電話の定番、ご挨拶。
 とにかくアポ取って会社出ないと周りから厳しい視線を浴びせられる。
 おっかない上司だったら、「てめえ、この時間にも給料発生してるんだ」とか怒鳴るんだろうね。
 嫌味な上司だったら、「今日はずいぶん余裕だね」とか遠回しに責めてくる。
 こうなると、商品売るとかより、社内の戦いだね。

 「じゃあ、20分以内だったらいいよ。無駄足に終わるけど来てみれば」
 証券マン「ありがとうございます。では、お伺いします」

 証券マンやって来た。
 顔色良くないな。大丈夫か。

 「最初に断っておくが、見ての通り、私の方が経験も知識も圧倒的に上だ。間違っても説得にかかろうなんて思っちゃいけない」
 証券マン「承知しております」
 「それと、時間な。かけた時間と収穫を天秤にかけたほうがいい」

 買ったばかりのAmazoneエコーショー、出番だぜ。
 「アレクサ、20分のタイマー、セットして」と言ってやろうかと思ったが、それはやめた。

 証券マンはA4ペーパー1枚差し出したが、そんなもん興味ねえと最初から言ってるだろう。
 ちなみに1000万円投資しろだと。
 そんな余裕あるわけねえ。

 それより、こっちの質問に答えろ。

 なになに。関西の生まれだが親の転勤で高校は神奈川の県立高校を出て都内の大学に入った。
 高校名を聞いたが、真ん中から下だ。大学はMARCH以下だな。
 入った会社は、テレビCMもやっているから名は知られているが中堅といったところ。

 証券会社は野村証券が圧倒的に大きくて、2位の大和証券にダブルスコアかトリプルスコアぐらいの差をつけている。
 いわゆるガリバーというやつだ。
 近年は、SBIとか松井、楽天、マネックスといった店舗を持たないネット証券が台頭している。

 で、入社3年目で、同期は300人以上いたが、今は100人前後に減っている。

 証券の採用は相変わらずだな。
 我々世代が、今で言う就活をやっていたころと全然変わらない。
 どうせ減るだろうと見込んで大量採用して自然減を待つ。
 別に会社側はやめろとは言わないが、厳しさに耐えかねて勝手に辞めて行く。
 
 有名証券や有名銀行に入って、それだけでおめでとうじゃないんだ。
 予選出場権を与えられただけ。
 そこから、ふるい落としが始まって、3年5年のうちに、あいつもこいつも皆いなくなっちゃった、となる。
 本当の生き残りレースはそこからだ。
 今日訪れた若者も予選敗退か、本選進出かの瀬戸際なんだろう。

 「まあ、ここまで粘ったのだから、もう少し頑張ってみたら。1年後に電話してきたらまた会ってもいいよ。ただし、あなたが辞めているかもしれないし、私が生きていないかもしれない」