学校関係者の皆さん既にご存知のとおり、国際学院中学校(伊奈町)が来年度の生徒募集を停止する。

 「国際学院中学校 生徒募集停止 のお知らせ」(令和5年3月28日 同校HP)

 同中学校は平成25年(2013年)であるから、僅か10年でその歴史に幕を閉じるわけである。
 80人募集に対し、1ケタ入学者が続いていたことを考えればやむを得ないだろう。
 なぜ勝算のない戦い(外部から見て)に挑んだのかという問題はさておき、改善の見込みが低い不採算部門をカットするのは、ある意味英断と言えよう。
 
 さて、こうなると次はどこかと気になるところだが、その前に簡単に私立中学校設立の歴史を振り返ってみよう。

◆中高一貫ブームの幕開け
 埼玉県の中高一貫ブームの幕開けは平成4年に栄東と城西川越、同5年に西武文理が開校したあたりからだろう。
 少し遅れて同9年に開智と埼玉平成、さらに遅れて同12年に埼玉栄、星野学園、立教新座が開校している。
 
 整理してみよう。
 平成04年 栄東 城西川越
 平成05年 西武文理
 平成06年
 平成07年
 平成08年
 平成09年 開智 埼玉平成
 平成10年
 平成11年
 平成12年 埼玉栄 星野学園 立教新座
 平成13年 獨協埼玉
 平成14年 城北埼玉

 昭和の時代からあった浦和ルーテル学院、自由の森学園、秀明、聖望学園の4校を加え、ここまでで14校。
 まだ、県内私立の3分の1にも満たなかった。

◆中高一貫ブームの本格化
 平成15年から、中学校設立は一気に加速する。
 この年、浦和明の星女子、大妻嵐山、春日部共栄が開校する。
 また県立初の伊奈学園中学校もこの年だ。
 さらに1年おいて平成17年に、浦和実業学園、大宮開成、淑徳与野が開校する。
 その後は、やや落ち着きを見せ、1年に1校ペースで開校が続いた。

 整理してみよう。
 平成15年 浦和明の星女子 大妻嵐山 春日部共栄
      (県立伊奈学園)
 平成16年
 平成17年 浦和実業学園 大宮開成 淑徳与野
 平成18年 本庄東
 平成19年 (さいたま市立浦和)
 平成20年
 平成21年 東京農大三
 平成22年 昌平
 平成23年 開智未来
 平成24年 西武台新座

 私立中高一貫が25校に達し、県内私立全体の半数を超えた。

◆第二のピーク
 中高一貫が多数派となり、高校単独を維持するか、中学校を新設し中高一貫校の仲間入りをするか、この時期各校は岐路に立たされた感がある。
 平成25年には、武南、狭山ヶ丘、東京成徳大深谷、国際学院の4校が開校した。
 その後、同28年に本庄第一、同31年に細田学園、そして県内初の中等教育学校であるさいたま市立大宮国際中等教育学校も開校した。

 整理してみよう。
 平成25年 武南 狭山ヶ丘 東京成徳大深谷 国際学院
 平成26年 
 平成27年
 平成28年 本庄第一
 平成29年
 平成30年
 平成31年 細田学園
      (さいたま市立大宮国際中等教育学校)

 私立中高一貫は31校に達し、県内私立全体の3分の2を占めるに至った。

◆苦戦する後発校
 今春の入学者数が募集人員の50%に達していない学校が5校ある。
 ※カッコ内募集人員。充足率は推定値である。

 国際学院(80人)充足率0%
 狭山ヶ丘(80人)充足率20%
 埼玉平成(75人)充足率27%
 東京成徳大深谷(70人)充足率27%
 細田学園(120人)51人 充足率43%

 埼玉平成を除けば、いずれも平成25年開校の後発組である。
 平成25年開校の武南(80人)と28年の本庄第一(70人)は共に70%の充足率。

 今春、充足率100%を超え募集定員を確保している学校は31校中13校である。
 その中でもっとも歴史が浅いのが平成22年開校の昌平(105人)で、次が17年開校の浦和実業学園、大宮開成、淑徳与野となっており、スタートが遅い学校ほど苦戦している様子が伺える。

◆先発優位性
 マーケティング用語に「先発優位性」というものがある。
 読んで字のごとく「先に始めたもん勝ち」である。

 先発組は市場開拓に苦労することが多い。
 「中学校は公立でいいじゃない」と考える人々(今でも多いが)に対し、私立中学校や中高一貫の良さを理解してもらうためには多大な投資が必要だ。
 失敗のリスクも大きい。
 最初に始めた人は最初に失敗する人でもあるのだ。
 ただ、一方では先に始めることで多くのノウハウを蓄積できるメリットもある。
 いち早く中学校を開校した栄東は先発優位性を享受している典型だろう。

 先発優位性に対して後発優位性というのもある。
 市場がある程度開拓されてからの参入は広告宣伝費などが抑えられる利点がある。
 先発組の問題点や課題を解消すれば優位に立つこともできる。
 大宮開成、昌平といった学校は決して早期参入とは言えないが、後発の優位性を生かしたと言っていいだろう。

 公立も含め、中高一貫化は今後も続くと思われるが、その一方で淘汰される学校も増えて行くのがこれからの時代だ。