少し前の話になるが埼玉県教育委員会から「学校における働き方改革基本方針」というものが発表された(9月24日:県立学校人事課)。
 公立高校の先生は当然目にしているはずだが、私立高校や塾の先生にとって、公立の先生がどんな働き方をしようが直接は関係ないわけで、見ていない人がほとんどだと思われる。

 だが、働き方改革は公務員の働き方が変わればそれでよしという問題ではない。公務員の数については多すぎるという人もいるが、国際的に見れば日本の公務員はむしろ少ないぐらいで、民間と公務員の比率は9:1程度だろう。詳しいデータは調べていないが、圧倒的多数が民間であることは間違いない。
 それゆえ、公務員のうちの地方公務員、さらにそのうちの教育公務員の働き方を変えたとしても日本全体の働き方に及ぼす影響など高が知れているわけだが、今、国全体がどういう方向に進もうとしているかを知っておくことは無駄ではないだろう。

 ということで、われわれからすれば「あっち側」の話ではあるが、もしかしたら、「こっち側」にも関わってくるかもしれないという思いで、一応目を通しておいた。

 全文(表紙・目次含めA4版17頁)を熟読する必要はないが、私立及び塾関係者には、本文9ページ目をご覧いただきたい。

 教職員の専門性を踏まえた総業務量の削減
 ○教職員の専門性の観点から優先順位を付けて業務を削減
 「進学フェア等のイベントについては、多忙化解消・負担軽減の観点から、大幅に縮減するよう主催者団体に働き掛けます。その際、夏季休業中に行われている生徒募集に関する大規模なイベントについても、日数の縮減について主催者に働き掛けます。また、趣旨の重なるイベントについて、日数の縮減や開催時期を調整 するよう、それぞれの主催者に働き掛けます。中学校訪問については、時期や回数、 方法を見直すことで全県一斉的に縮減するようにします。」

 ここが私にも関わりのある部分だ。
 「進学フェア等のイベントについては、多忙化解消・負担軽減の観点から、大幅に縮減するよう主催者団体に働き掛けます。」
 県教委は後援に入ることはあっても自らは進学イベントを主催していない。たとえば地域イベントである「東部地区県立学校進学フェア」なども、主催が東部地区校長会、後援が埼玉県教育委員会である。
 ここで言う主催者は、新聞社・出版社・塾・NPOなど民間会社・団体のことであり、これらに対し、大幅縮減するよう働き掛けるのが基本方針だ。

 「その際、夏季休業中に行われている生徒募集に関する大規模なイベントについても、日数の縮減について主催者に働き掛けます。」
 夏季休業中に行われる大規模なイベントとは、具体名こそ出していないが、誰が考えてもさいたまスーパーアリーナにおける「彩の国進学フェア」(主催:読売新聞)のことだろう。これについては日数の削減、つまり2日開催を1日開催にするよう働き掛ける方針が示されている。
 ちなみに、来年度に関してはスーパーアリーナが東京オリンピック会場となっているため使用できず、大学など代替会場を検討しているところだが、開催できるかどうか分からない。いずれにせよ、県からの働き掛けを待つもでもなく規模縮小の方向に向かっている。

 県教委が民間に出来ることは、あくまでもお願いであるから、開催そのものはできるが、今後は、公立高校が民間主催のイベントに参加しずらくなるだろう。現在でも先生の動員(やり繰り)には苦労しているのだ。
 現場の管理職(校長・教頭)には、一方で県教委から生徒確保の圧力がかかっているから、進学イベントには出来る限り参加したいという思いもあるだろうが、こうした基本方針が示された中、職員の協力体制を維持できるかどうか。
 このあたりは、多かれ少なかれ私立も抱えている問題であるので、私は数年前から「進学イベントは選ばれる時代」、「選んで出る時代」になると予告してきた。いよいよ、それが現実のものになってきたという思いである。

 現在ある進学イベント(フェアや合同相談会)は、県教委の働き方改革を持ち出すまでもなく、すでにオワコン(終わったコンテンツ)である。私も立ち上げに関わった「彩の国進学フェア」にしても、構想したのは20世紀の終わりである。インターネットはまだ珍しく、スマホもなく、当然FacebookもTwitterもLINEもYouTubeも使われていなかった時代である。そういう時代だからこそ歓迎されたビジネスモデルだ。
 同じ手法が20年も30年も通ずるわけがない。

 もちろん、今すぐに20世紀型の進学イベントがなくなるわけではない。そこは民間企業のことだ。手を変え品を変え生き残りを図ることだろう。大きな時代の変化と、その下での保護者・受験生のニーズを正しくつかみ取ったイベントだけが選ばれ、生き残るであろう。
 また、学校側も、20世紀型の募集広報手法からの脱皮が急務なのであるが、その話は別の機会にしよう。