今日は埼玉県公立高校の専門学科について語ってみよう。地味な企画である。
 が、ここに自分の将来を賭けようという中学生だっているわけだから、教育に関わる仕事をしている以上、「それは知らん。興味ねえ」とは言えんだろう。

 ちなみに私は、年に数校の授業や実習を取材に行っているし、産業教育フェア(11月)にもここ3年ほど行っている。未だ足を踏み入れたことがない専門高校は、あと2校だけであるから、まあまあの専門高校ウォッチャーではないかと思っている。

 塾や中学校の先生が、生徒や保護者から質問や相談を受け、専門高校についてザックリの知識を得たかったら、ここが便利だ。
 埼玉県教委のHPにある「専門高校ガイド」
 ただ、激しく残念なのは、情報がアップデートされていないことだ。「専門高校を目指す受験生必見」と威勢はいいが、トピックスは平成でストップしているし、「中学校の先生と生徒のためのガイド」も2018年版のままだ。もしこのブログを高校教育指導課産業教育担当の方がご覧になっていたら、ぜひ更新してくださいと申し上げておこう。

 進路希望調査(12月15日現在)における倍率は以下のとおりである(既報)。
 ※(  )内は前年同期。
 農業 0.99倍(1.05倍)
 工業 1.00倍(0.98倍)
 商業 0.88倍(0.82倍)
 家庭 0.97倍(1.18倍)

 専門学科としては、理数や外国語などもあるわけだが、ここでは主に就職が前提となっている職業系専門学科に絞って話を進める。
 普通科の倍率が、前年同期より下がったとは言え1.20倍であるから、それと比較すると人気薄であることが分かる。

◆倍率の高い学科(1.00倍以上)
◇農業系
杉戸農業・生物生産技術 1.65倍
杉戸農業・食品流通   1.60倍
熊谷農業・生物生産工学 1.04倍
杉戸農業・生活技術   1.03倍
杉戸農業・造園     1.03倍
秩父農工科学・農業   1.03倍
熊谷農業・生物生産技術 1.00倍

 6校18学科中、1.00倍を超えているのは3校7学科である。
 杉戸農業は6学科中4学科で1.00倍を超えており、農業系では一番の人気校だ。
 校名に農業を冠するのは熊谷農業・杉戸農業の2校(秩父農工科学も含めれば3校)で、農業科があるのは秩父農工科学のみであり、学科の中心は生物・食品・園芸に移っている。
 農業系全体では希望者の51.7%が女子である。

◇工業系
川越工業・デザイン   1.80倍
熊谷工業・建築     1.75倍
越谷総合技術・情報技術 1.65倍
川越工業・機械     1.35倍
川越工業・電気     1.35倍
大宮工業・電気     1.30倍
川越工業・建築     1.28倍
久喜工業・情報技術   1.28倍
大宮工業・建築     1.27倍
春日部工業・建築    1.24倍
大宮工業・電子機械   1.14倍
川口工業・機械     1.14倍
狭山工業・機械     1.13倍
春日部工業・機械    1.11倍
川口工業・電気     1.11倍
大宮工業・機械     1.10倍
進修館・ものづくり   1.10倍
熊谷工業・情報技術   1.08倍
新座総合技術・情報技術 1.05倍
新座総合技術・デザイン 1.05倍
三郷工業技術・情報技術 1.03倍

 14校49学科中、1.00倍を超えているのは11校21学科である。
 校名に工業を冠する学校すべてにあるのが、電気科と機械科である。
 建築科は大宮工業・春日部工業・川越工業・熊谷工業の4校にあるが、いずれも1.2倍を超えており、工業系では一番人気の学科である。
 情報技術科は浦和工業・久喜工業・熊谷工業・越谷総合技術・新座総合技術・三郷工業技術の6校にあるが、浦和工業を除く5校は1.00倍を超えており、建築科に次ぐ人気学科である。
 大宮工業は4学科すべてが1.00倍を超えている。川越工業は5学科中4学科、春日部工業は3学科中2学科で1.00倍を超えている。
 川越工業・デザインは希望者の93%が女子である。また、新座総合技術・デザインも81%が女子である。

◇商業系
市立川越・国際経済 1.43倍
深谷商業・会計   1.33倍
市立川越・情報処理 1.33倍
上尾・商業     1.29倍
深谷商業・情報処理 1.29倍
深谷商業・商業   1.10倍
鳩ヶ谷・情報処理  1.08倍
浦和商業・情報処理 1.05倍
岩槻商業・商業   1.01倍
所沢商業・情報処理 1.01倍

 17校30学科中、1.00倍を超えているのは7校10学科である。
 商業系17校中、上尾・鴻巣・鳩ヶ谷・鳩山・八潮南・市立川越の6校は普通科併設校であり、越谷総合技術・新座総合技術・羽生実業の3校は多系統の専門学科との複合校で、商業系のみの学校は8校である。
 伝統的な商業科が9校にあり、比較的新しい情報処理科が11校にある。商業系は農業系・工業系・家庭系に比べ人気がなく、近年は学科名に「ビジネス」、「流通」、「国際」などの語を用いイメージアップを図っているが、倍率を見る限り、打開策とはなっていないようである。
 上尾・鳩ヶ谷・市立川越は普通科の倍率も高く、学校自体の人気に支えられている部分もあるだろう。
 最古の歴史を誇る深谷商業は3学科すべてで1.00倍を超えており、商業高校としては一番の人気校だ。

◇家庭系
鴻巣女子・保育     1.28倍
越谷総合技術・食物調理 1.23倍
新座総合技術・食物調理 1.18倍
秩父農工科学・フードデザイン 1.05倍
 
 鴻巣女子の保育は県内唯一の学科であり安定した倍率を保っている。

専門高校からの大学進学はできるのか
 次に大学進学率を見てみる。
 就職が前提であるから就職率がキープできれば、また、就職先が安定した企業であれば何ら問題はないわけであるが、いったん専門高校に入ってしまうと大学進学への道が閉ざされてしまうのではないかと考える人も多いようなので、必ずしもそうではないことを知ってもらうために示すものである。
 数値は昨日の記事同様、埼玉新聞社調査によるものである。

◆職業系専門高校の現役大学進学率(平成31年3月卒業生)
◇工業系
春日部工業  18.18%
大宮工業   17.83%
熊谷工業   16.67%
川越工業   14.87%
狭山工業   11.54%
浦和工業   11.29%
久喜工業   10.68%
◇商業系
狭山経済   21.52%
熊谷商業   20.35%
深谷商業   19.34%
浦和商業   11.03%
岩槻商業   10.73%
◇その他
新座総合技術 26.86%
越谷総合技術 21.29%
いずみ    18.89%
※新座総合技術・越谷総合技術は工業系・商業系・家政系の複合型専門高校であり、いずみは生物・環境系であるため、ここではその他に分類した。

 この数字だけでは分かりにくいと思われるので、普通科の数値も示しておこう。
◆現役大学進学率が20%以下11%以上である普通科高校
新座柳瀬  18.70%
上尾鷹の台 18.52%
川口青陵  18.39%
川越初雁  16.84%
鶴ヶ島清風 15.96%
北本    15.48%
和光    15.13%
八潮    14.86%
草加西   14.59%
上尾橘   14.49%
蓮田松韻  14.44%
三郷    14.21%
松伏    13.97% 音楽科含む
新座    13.58%
鳩山    13.22% 情報管理科含む
児玉    13.04%
栗橋北彩  12.92%
八潮南   12.09% 商業科・情報処理科含む
越生    11.85% 美術科含む
飯能南   11.76%
日高    10.24%
◆現役大学進学率が10%以下である普通科高校
桶川西    9.78%
岩槻北陵   9.59%
妻沼     5.22%

 以上の数値を見る限り、大学進学への道が完全に閉ざされてしまうとまでは言えないようだ。ただ、注意しなければならないのは、専門高校からの大学進学は、指定校推薦が主流であり、一般推薦・AO入試なども一部含まれるが学科試験による一般入試での進学は極めて少ないということだ。大学に行けないことはないが、進学先が限定されてしまうということだ。

専門高校は脱落者が多いのか
 専門高校を選ぶ場合、心配なのは自身の興味関心・適性などとのアンマッチであろう。そこで、入学者のうちどれくらいが卒業しなかったかの割合(「非卒業率」としておこう)を調べてみた。
 入学時と卒業時の人数の差は、一家転住ということもあれば、健康上の理由などもあるだろう。転編入によりプラスとなる場合もある。したがって、引き算がそのまま中退や進路変更によるものとは言えないので、その点は十分に注意して見ていただきたい。
 なお、数値は「(入学者数-卒業者数)÷入学者」で求めた。卒業者数は埼玉新聞社調査、入学者は県調査を用いた。

◆非卒業率が低い専門高校
熊谷工業   0.00%
深谷商業   1.79%
狭山経済   2.07%
熊谷商業   3.75%
川越工業   4.27%
春日部工業  4.55%
秩父農工科学 4.96%
大宮商業   5.00%
所沢商業   6.22%
浦和商業   7.72%
進修館    7.79%
大宮工業   8.19%

 以上が10%以下の学校である。商業系と、伝統のある工業系は非卒業率が低いようだ。
 全体を見渡すと、次の数値が得られる。
 普通科高校 30%超1校
       20%超9校
       10%超12校
 専門高校  30%超1校
       20%超4校
       10%超8校
 学校数を考えれば、全体としては専門高校の方が非卒業率は高い傾向にあるから、くれぐれも学校選びは慎重にということになる。倍率が低いからといった理由で選ぶと、結局後が続かない。

 非卒業率が高い。つまり中退者が多そうだからダメな学校と即断しない方がいい。卒業した生徒は、欠けて行く仲間を横目に、目標を見失わず、しっかりと技術を身に付け、資格を取得し、就職・進学して行ったのである。自称、専門学校ウオッチャーの私は、これまで何人もそういう生徒にインタビューしてきたが、性格は穏やかだし、親思いだし、先生をリスペクトしているし、学校愛に溢れているし、いい子たちだよ。

 以上。ちょっと長くなったが進路相談の参考になれば幸いである。