埼玉県高校入試では、事前に2回の進路希望調査が行われている。
 1回目は10月1日現在調査、2回目は12月15日現在調査。
 集計結果発表は、どちらも約1か月後となる。即時発表ではないので、調査時から発表時までの間に受験生に大きな動きがあると推測される。本日はそのあたりに焦点を当てた話である。

◆第1回の倍率は気にしたほうがいい
 中学校や塾の先生方は、第1回の倍率はあまり気にしなくてもいいと指導されることが多い。上位難関校や知名度の高い人気校ほど高倍率となるが、本番に向け徐々に低下することが経験上分かっているから、慌てて志望校を下げないようにと指導するわけである。

 が、受験生はそれでいいとしても、高校側は大いに気にしたほうがいいのである。

 たとえば、令和4年度(2022年度)入試で見た場合、第1回調査時点で全日制普通科110校(コース含む、以下同)のうち48校が定員割れ状態だった。
 48÷110=43.6%
 半数とまでは行かないが、かなり多いと言っていいだろう。

 では、この48校中、最終的に1.00倍を超え、定員割れ状態を脱した学校は何校あったか?
 (なお今回は最終倍率の数字として、2回の志願先を経た後の確定倍率を用いる)

 最終倍率で1.00倍を超え、定員割れ状態を脱したのは17校であった。
 17÷48=35.4%
 およそ3分の1強は定員割れ状態を脱したが、31校(64.6%)は、最終的にも定員割れであった。

◆第1回でクリアしておきた倍率
 では次に、第1回では定員割れ状態だったが、最終的に1.00倍を超えた17校をもう少し詳しく見てみよう。
 その前に学校名を挙げておく。
 上尾鷹の台・上尾南・浦和北・桶川・春日部女子(普)・川口東・久喜・狭山清陵・志木・杉戸・鶴ヶ島清風・羽生第一・飯能・日高(普)・三郷北・妻沼・八潮(体育コ)

 以下が具体的な数字で、最終倍率が高かった順。
 数字は第1回倍率→最終倍率 上昇率である。
 
 狭山清陵  0.87→1.13 +0.26
 浦和北   0.98→1.11 +0.13
 久喜    0.97→1.09 +0.12
 志木    0.93→1.08 +0.15
 上尾鷹の台 0.97→1.05 +0.08
 上尾南   0.90→1.05 +0.15
 杉戸    0.94→1.04 +0.10
 羽生第一  0.87→1.04 +0.17
 日高・普  0.70→1.03 +0.33
 三郷北   0.92→1.03 +0.11
 川口東   0.88→1.02 +0.14
 飯能    0.74→1.02 +0.28
 妻沼    0.52→1.02 +0.50
 春日部女子・普0.94→1.01+0.07
 鶴ヶ島清風 0.85→1.01 +0.16
 桶川    0.91→1.00 +0.09
 八潮・体コ 0.60→1.00 +0.40

 17校中9校(52.9%)は0.90倍以上、同4校(23.5%)は0.85倍以上からのスタートであるから、まずはこのあたりが最終的に定員割れを脱するために第1回でクリアしておきた倍率と言えそうだ。むろん、これをクリアしていても定員割れを回避できなかった学校もあるから、安心できる数字とまでは言えない。

 低い倍率からのスタートで定員割れを回避した学校もあるが、募集定員の少ない学校である。八潮・体育コ(40人)、日高・普(120人)、妻沼(120人)などは僅かな人数増で倍率が大きく上がる。
 浦和北が第1回で1.00倍にとどかなかったのは、320人から360人への定員増の影響だろう。令和5年度は320人に戻ると予想されるので、次は第1回での定員割れはないだろう。

◆第1回でクリアしておきたい倍率、再検証
 前項で第1回でクリアしておきたい倍率が0.90倍以上、もしくは0.85倍以上と言ったが、では最終的に定員割れを回避できなかった31校の第1回倍率がどうだったかを見ておこう。

 川越西     0.99
 大宮東・普   0.93
 岩槻・普    0.92
 児玉・普    0.87
 松伏・普    0.86
 八潮・普    0.82
 深谷      0.81
 宮代      0.80
 大宮光陵・外コ 0.75
 桶川西     0.73
 小川      0.71
 鴻巣女子・普  0.70
 庄和      0.70
 白岡      0.68
 栗橋北彩    0.63
 新座      0.61
 北本      0.58
 和光      0.53
 富士見     0.52
 上尾橘     0.51
 飯能南・普   0.51
 岩槻北陵    0.49
 越生・普    0.48
 川越初雁    0.48
 三郷      0.42
 児玉・体コ   0.38
 日高・情コ   0.38
 松伏・情ビ   0.38
 蓮田松韻    0.36
 鳩山・普    0.28
 飯能南・スポ  0.23

 やはり全体的に低い。
 0.90倍以上が3校、0.85倍以上が2校あった。最終的に定員割れを回避できる可能性がある倍率だが、とどかなかった。
 川越西は320人から360人への定員増、大宮東・普は240人から280人への定員増も影響した。

 以上まとめれば、やはり第1回時点で0.85倍以上、できれば0.90倍以上をクリアしていないと、最終的に定員割れを回避することは難しいという結論になる。

 なお、第1回で1.00倍以上でありながら、最終的に定員割れした学校が2校ある。朝霞(1.24→0.99)と鷲宮(1.13→0.96)だが、滅多に起きない現象だ。

◆倍率変化はどの時点で起きていたか
 第1回で定員割れ状態でありながら、最終的に回避できた17校の話に戻る。
 ここでは、倍率上昇がどの時点で起きているかという視点で見てみよう。
 それぞれの学校について、第1回から第2回にかけての倍率変化と、第2回から最終出願にかけての倍率変化とでは、どちらが大きいかを比較してみる。

【第1回から第2回にかけて変化が大きい】
 数字の見方
 上段 第1回→第2回→最終
 下段 1回と2回の差 2回と最終の差

 浦和北   0.98→1.10→1.10
       +0.12 ±0
 狭山清陵  0.87→1.09→1.13
       +0.22 +0.04 
 鶴ヶ島清風 0.85→1.01→1.01
       +0.16 ±0
 上尾鷹の台 0.97→1.05→1.05
       +0.08 ±0
 三郷北   0.92→1.05→1.03
       +0.13 -0.02
 日高・普  0.70→0.88→1.03
       +0.18 +0.15
 飯能    0.74→0.89→1.02
       +0.15 +0.13
 桶川    0.91→0.97→1.00
       +0.06 +0.03

 浦和北・狭山清陵・鶴ヶ島清風・上尾鷹の台・三郷北は、第1回から第2回にかけて大きく変化(上昇)しており、第2回の時点ですでに1.00倍を超えている。そして最終出願にかけてはあまり変化がない。

【第2回から最終出願にかけて変化が大きい】
 久喜    0.97→1.00→1.09
       +0.03 +0.09
 志木    0.93→0.98→1.08
       +0.05 +0.10
 上尾南   0.90→1.01→1.08
       +0.03 +0.07
 杉戸    0.94→0.95→1.04
       +0.01 +0.09
 羽生第一  0.87→0.87→1.04
       ±0   +0.17
 川口東   0.88→0.87→1.02
       -0.01 +0.15
 妻沼    0.52→0.69→1.02
       +0.17 +0.33
 春日部女子・普0.94→0.87→1.01
       -0.07 +0.14
 八潮・体コ 0.60→0.63→1.00
       +0.03 +0.37
 
 久喜・上尾南は第2回時点で1.00倍を超えたが、最終出願にかけての変化の方が大きい。

◆変化の時期がなぜ重要なのか
 第1回から第2回にかけての倍率変化は、受験生が第1回の倍率を見て志望校を変えたか、模試成績を見て変えた結果と考えることができる。

 だが、それだけではなく、9月下旬から12月初旬にかけての説明会参加で志望校を変えた可能性も高い。
 特に10月から11月の2か月間は、説明会・個別相談等が集中する時期である。私立の、いわゆる「確約」取りも、この時期が最盛期となろう。併願私立の確定は、公立志望校の決定にも影響を及ぼす。

 したがって学校側としては、この時期の、あるいはそれまでの説明会やWEBサイト等による情報発信のあり方が大きく影響しているのではないかという視点を持つべきだろう。

 一方、第2回から最終出願にかけての倍率変化は、1月中旬に発表される第2回の結果に、より強く影響されている可能性が高い。

 端的に言えば、第1回から第2回にかけての変化は、学校側の募集活動の結果であり、第2回から最終出願にかけての変化は、受験生が倍率を重視した結果であり、学校側の活動はあまり関係ない。

◆第2回で倍率を高める方法
 第2回までに倍率1.00倍超を目指すには、学校としてどう対応したら良いか。
 とりあえず説明会のことだけを考えれば、回数を増やしたほうがいい。それだけで受験生を増やし倍率を高められるわけではないが、接触機会は多いに越したことはない。

 10月・11月をメインに、9月の終わりと12月の初め。
 この10週間、私立だったら毎週のように説明会や個別相談会を入れてくるところだ。
 公立上位校でも、この10週間を完全スルーする学校はないだろう。
 最激戦期である。
 それに伴って、受験生の動きがもっとも活発になる。かれらは「決めるために来る」のである。

 そういう最激戦期に、果敢に攻め込むのか、それともここは正面切っての戦いは避け、じっと待つのか。
 これはもう各学校の判断なのであるが、私だったら迷わず「攻め」を選択する。なぜなら、ここで来てくれる5人、10人は、1月・2月に来てくれる5人、10人とは意味が違うからである。ここで来てくれるのは「意志」で来る受験生、あとで来るのは「作戦」で来る受験生。どっちが欲しいかと言われれば、もちろん「意志」で来る受験生だ。

 で、一応ここで断りを入れておくが、どんな経緯で入学して来ようが、入ってから差別などしないし、仕方なく入ってきた生徒が大成することはいくらでもある。
 いま語っているのは教育論ではなく、募集マーケティングの戦略論である。

◆定員割れ校の平均は1.71回
 昨年のカレンダーで言えば9月25日(土)・26(日)から12月4日(土)・5(日)までの11週間。今年のカレンダーで言えば、9月24日(土)・25日(日)から12月3日(土)・4日(日)までの11週間。
 第2回(12月15日現在調査)で希望校として書いてもらうためには、この間に何らかの行動をしなければならない。

 埼玉県総合教育センターのサイトに令和4年度、つまり昨年の各校学校説明会予定が掲載されている(ちなみに、今年の分は6月に発表するそうだ)。
 これにより、第1回で定員割れ状態だった学校48校が、11週間で何回の説明会を計画していたかを調べてみた。
 第1回で定員割れ状態だった学校の平均は1.71回であった。
 さらに細かく言えば、そのうち最終的に定員割れを回避した17校の平均は1.82回であり、定員割れを回避できなかった31校の平均は1.65回だった。
 
 第1回は定員割れでありながら第2回では1.00倍に到達した狭山清陵はこの間に3回、鶴ヶ島清風・上尾鷹の台・三郷北は2回実施している。鶴ヶ島清風などは大胆にも「予約不要」としていた上、日曜日開催も入れていた。職員の勤務はどういう形にしたんだろう。
 
◆黄金の10週間を見送るな
 受験生の動きがもっとも活発になる最激戦かつ黄金の10週間(カウント次第で11週間)に、たった1回しか説明会を設定しないようでは、選ぼうにも選びようがないではないか。

 繰り返すが、「もう決めなければ」「そろそろ決めなければ」と学校を探しているのがこの時期だ。
 たとえお客が少なくても店は開けておけ
 余計なお世話だが、これが私からのアドバイスだ。