中学校における講演会に参加した。
 と言っても、今回は学校側に講師を斡旋した(紹介した)のであって、自分自身が講師を務めたわけではない。
 講演者と学校との間に立ち、事前に細部にわたり調整役を果たす。

 今回、講演者は超一流企業の出身者であった。
 私などと違って、世界を相手にビジネスをやって来た人だ。
 経験も知識も申し分ない。
 唯一不安があるとしたら、中学生相手に講演をした経験が乏しいことだ。

 まあ全体としては無難にこなしてくれたかなという印象だ。
 ただ、随所に初心者らしさが出ており、その点が今後の課題だ。
 ご本人は、何回かは経験しているので初心者の自覚はないと思うが、この世界で5回や10回はまだ初級者である。

◆足し算ではなく、引き算で考える
 知っていることは他人に話したくなるものである。
 自分が面白いと思ったことは他人にも教えたくなるものである。
 結果、あれも言っておこう、これも話しておこうと、話が盛りだくさんになる。
  
 聞き手が大人であり、相応の知識、経験を持っていれば、それでも何とかなる。
 これは余談だ。
 本題とは関係ない。
 聞き流していい。
 そういう判断をしながら聞く術を持っているからだ。

 しかし、知識、経験に乏しい子供たちにはこの判断ができない。
 全部聞いてしまう。
 すべてメモし、覚えようとしてしまう。
 そして、一番知って欲しいことが伝わらず、枝葉末節を記録し、記憶してしまう。
 私自身、教員として駆け出しであった頃、講演者として経験の浅かった頃、しばしばこのミスを犯した。

 経験を積んでからは、ここは今回は触れない、深入りしないといった形の「引き算の発想」が少しずつできるようになった。
 講演には、話をするために来ているのである。
 だから、その状況で話をしないという選択は難しいのだ。
 そこをグッと我慢することで、一番大事なことが伝わる。

 いろんな話をする人は、物知りと思われるより、何が言いたいのか分からない人と思われることの方が多いので、注意しなければならない。

◆聞き手に行動のきっかけを与える
 私が中学生相手に話をするとき、目的はただ一つだ。
 次のアクション(行動)を起こしてもらうこと。

 そのことに興味を持ち、自分で調べてくれるのが一番だが、一足飛びにそこまで行かなくてもいい。
 まずは、担任や教科の先生のところに質問に行ってくれることだ。
 「今日の話、面白かったし興味を持ったけど、もっと深めるにはどうしたらいいですか?」
 と、こんな感じで、先生の所に足を運んでくれれば大成功だ。

 私は、生徒を指導するために呼ばれているわけではない。
 指導は先生の仕事だし、かれらが専門家だ。
 指導は先生により、個別的に、継続的に行わなければならない。
 だから私の役割は、生徒の足を先生に向けるところまでだ。

 昔、教員をやっていたので、講師を招き講演会を実施したこともある。
 その際、はっきり言って講師の話の中身など、どうでもよく、ただ生徒のみ見ている。
 その講演会により、かれらの行動や態度に僅かでも変化が見られたかどうか、そこしか見ていない。
 
 講師の名前や経歴など、終わった瞬間忘れていい。
 何なら最初から覚えなくてもいい。
 講演会の講師とはそういう存在だ。
 自分アピールは必要ない。
 (講演を業とする人は別)

 講演している最中は、講師自身が主役だ。
 だが、その講演会を企画したのは先生であり、先生は講師の力を借りて、生徒の行動変容を促そうとしている。
 そう考えると、実は講演会の影の主役は先生なのではないかと思えてくる。
 
 考えてみれば、頼まれて自ら講演を行ったことは多々あるが、講師を探してきて企画のお手伝いをしたのは初めてだ。
 厳密には何十年か前、少しやった記憶はあるが、遠すぎて自分の中に何も残っていない。
 その意味で講演企画者としては初心者だ。
 今回はいい勉強をさせてもらった。