「昔、あれだけ面倒みてやったのに、いつの間にか態度がデカくなりやがって」と、私立学校に対しお怒りの塾長先生がいらっしゃるそうだ。
 そもそもその言い方に問題ありなのだが、他人のことを言えた義理ではないので、そこは触らずに行こう。

 以前、私立学校が生徒募集で苦戦していた時代に、ずいぶんと塾生を送り込んでやった。ところが、だんだんとレベルアップし人気校になってくると、「その成績では…」と、断られるようになった。恩知らずめ。
 
 とまあ、こんな具合なのだが、世間ではよくあることなのである。われわれ民間企業でも取引先との関係が変化したり、取引先そのものが変わってしまうのは日常的なことだ。

 たとえば、取引相手の企業がまだ小さく無名で大して仕事がない時代は、「何でもやります」「金はいくらでもいいです」と言ってくるので、こちらも都合よく商売させてもらうのだが、次第に繁盛してくると、「今ちょっと忙しいんで」と断りを入れて来たり、「その金額では」などと条件を付けてきたりするようになる。
 こんな時、「昔はずいぶん助けてやったじゃないか」と言ってやりたいが、そんなことを言っても、「はい、その節はお世話になりました。感謝しています」で終わりである。

 取引先との関係は常に変化し、取引先自体も変わって行く。
 ビジネスの世界は常にそういうものであって、私立学校と塾との関係だって似たようなものである。
 両者の市場におけるポジションは刻刻変化し、その結果、関係性も変化する。これは受け入れざるを得ない現実なのである。

 私自身、「昔、あれだけ助けてやったのに」と言いたい場面は多々あるわけだが、考えてみれば長い年月の間に、相手方のメンバーは入れ替わっているのである。つまり、その人たちには助けてもらった実感もないし、助けてもらった事実すら知らないわけである。
 
 お怒りの塾長先生も、「昔、」を口にする以上、それなりの年齢に達しているものと思われるが、助けたという事実は自分の記憶の中にしか存在しないものなのかもしれない。そう割り切れば、新たなお付き合いの仕方も浮かんでくるだろう。
 以上、自身への戒めも込めて。