公立高校入試出題範囲の縮小は、どうやら全国的な傾向となりそうである。文部科学省は明確にその方向性を示しているが、公立高校入試は都道府県ごと、それぞれの方法で行われるものだから、現状維持するも縮小するも各教育委員会の判断となる。

 東京都はすでに縮小を決め、出題しない内容を明示した。奈良県もこれに近い方針を示した。大阪府も出題範囲を1~2割縮小する方向を示した。今後、各教委から次々と同様の発表があるだろう。
 一方、縮小しないと決めたところもある。関東では茨城県が現状維持の方向を示している。

 さて、私立高校はどうするか
 
 公立でも現状維持という県が2~3割は出てきそうだ。
 だとすれば、私立の現状維持派は割合としてはもっと多いことが予想される。
 何も私立が地元公立の縮小にお付き合いする必要はないわけで、今までだって公立とは一線を画した入試を行ってきたのだから、ここだけ歩調を合わせるというのもおかしな話である。

◆もし自分が私立の入試責任者だったらと考えてみる
 一口に入試責任者と言っても、その学校がどのようなポジションにあるかによって考え方は異なるわけだが、ブランド力があり、高い倍率を維持しており、質的にもハイレベルな受験生を集められているなら、迷わず現状維持だ。
 おそらく、上位校は安易な範囲縮小には走らないだろう。

 悩ましいのは生徒募集に不安を抱えている学校の場合だ。現状維持を貫くことにより受験生の数を減らしてしまうのではないかと考えてしまう。あるいはまた、レベルの高い生徒を取り逃してしまうのではないかと考えてしまう。
 たしかに競合私立が範囲縮小であるのに対し、自校が現状維持だった場合、受験生が競合に流れてしまうという不安は消せない。
 しかし、この考えにとらわれている間は、自校のポジションを引き上げることはできない。

 仮に今年の入試を「コロナ入試」と名付けるならば、「コロナ入試」は1回限りのことである。2年後3年後も「コロナ入試」が続いているとは思えない。
 ということは、ここで安易な条件を提示して受験生を集めたとしても継続性はない
 全校で談合でもしないかぎり、現状維持グループと範囲縮小グループに分かれるだろう。ならば、中長期的には現状維持グループに入っておいたほうがブランドイメージ的には得策だ。

 中学校の先生も、受験生も、夏休み返上し、土曜授業までやって遅れ回復に努めようとしている。その努力に報いる方法が現状維持以外にあるだろうか

 何とか全範囲を終わる見込みがついても、中学校の学習だけでは不十分と感じる受験生は塾に頼るだろう。塾は当然ながら対私立の講座を開くなどしてそのニーズに応えるだろう。塾にとって現状維持を否定する理由はない

 以上。もし自分が私立の入試担当者であったらと考えた場合、範囲縮小の明らかなメリットは思いつかず、むしろデメリットの方が多く思い浮かぶので、現状維持を選択する。

◆付録。範囲縮小も作問に神経を使う
 関係代名詞を使わず長文読解問題の地の文(問題文)をどう作るかだ。やたら注釈の多い問題になりそう。
 図形と関数の融合問題でグラフ上に三角形が出来て、そこを三平方の定理を使って解いて行くという定番問題が出せないのも痛い。
 漢字も中学校の場合、小学校と違って学年配当が決まっていないから、中3の最後の方だけを省くのは厄介で、漢字読み書き問題だけでなく、長文読解問題の作問にも神経を使う。
 単元ごとスッポリ省ける理社はともかく、英数国の作問には苦労しそうだ。
 範囲縮小を宣言しておいて、うっかり削減対象の事項が混じっていたら後々クレームが来る。マスコミに出題ミスと騒がれるだけならまだいいが、合否判定やり直せみたいにならないとも限らない。
 やっぱり現状維持にしておこう。