国会では、高校授業料無償化をめぐる議論が大詰めを迎えている。
 まさか、この時期この問題がここまで大きくクローズアップされるとは思わなかった。
 私は虚を突かれた感があるのだが、先生方はどうだろう。
 今国会で一番の争点となると予想していた方がいるとすれば、その方は実に読みが深い。

 最初、国民民主党が主張する「103万円の壁」に注目が集まったが、これはどうやっても飲めないと感じた自民党が組む相手を維新に乗り換えた。
 その結果、維新がかねて主張している所得制限無しの高校授業料無償化が一気に浮上した。
 2025年度予算案に賛成してもらう代わりに維新の政策を取り入れる。
 つまりバーター。

◆公立私立の関係はどう変わる
 全国一律で高校の授業料が無償化されれば、経済環境に関わらず学校が選べるので、進学の選択肢が広がるという点で大きなメリットがある。
 現在でも国の支援や都道府県の補助が充実してきた結果、学費格差は以前より縮まっているが、それでも「学費を考えると私立に行けない」という家庭もある。
 しかし、所得制限無しの無償化となれば、こうした悩みはなくなる。

 おそらく、この政策が実現すれば、多くの私立が授業料値上げに走るだろう。
 が、それを差し引いても学費面での公私の差はほぼなくなるので、それにより私立と公立の関係は大きく変わるだろう。
 埼玉県では令和9年度から公立入試制度が変わるが、公私の関係性の変化という点では、それよりも影響は大きいだろう。

◆教育の質は向上するか
 授業料無償化により、自由競争が加速する。
 それが結果として教育の質の向上につながる。
 という考え方がある。
 無償化促進派の考え方である。

 たしかにそういう面がある。
 しかし、授業料無償化により公平な競争が実現するかというと、そうはならない。
 
 私立は、各校の経営方針に基づき、リソース(ヒト、モノ、カネ)を特定分野に集中させるだろう。
 今でも概ねそうなっている。

 一方、公立の方は、実現すべき政策目標が多岐にわたる。
 専門高校教育も行わなければならないし、特別支援教育も行わなければならない。
 よってリソースを分散させなければならない。
 つまり、この時点ですでに公平な競争は不可能になっている。自由競争ではなくなっている。

 ゆえに、授業料を無償化すれば自由競争が加速し、教育の質の向上につながるというような簡単な話ではないのである。
 公立高校の財源確保が担保されないと公平な競争にはならない。

◆中高一貫への流れは加速
 東京都は2024年度から私立を含む高校無償化を進めた。
 これにより都立高校希望者は大幅に減少した。
 人口が多く、私立高校の数が一定数ある地域では、無償化によりこうした状況になるだろう。

 もう一つ考えなければならないのが、中高一貫校の問題だ。
 高校無償化により生まれた余裕で、中学受験が過熱する可能性がある。
 高校がタダなのだから中学校でお金をかけてもいいじゃないか、というわけである。
 こうなると、高校無償化の恩恵を受けるのは、高所得者層ということになりかねない。

 また、浮いた費用は塾や家庭教師代に回すという家庭も出てくるかもしれない。
 ここでも恩恵を受けやすいのは高所得者層ということになる。

 高校無償化は、新たな格差を生む可能性もある。
 そうならないためには、きちんとした制度設計が必要だ。
 
 今、国会で議論されているのは、教育政策ではない。
 教育政策であるならば、格差の是正、教育の機会均等、教育の質の向上について時間をかけて議論されなければならない。
 与党は予算を成立させるための国会対策として、野党は参院選挙に向けてのパフォーマンスとして、この問題を取り上げている。
 そこが問題なのだ。