近年、多くの高校が学校説明会やオープンスクールなどの入試関連イベントを、事前申込制かつ定員制としている。
 以前からこうした方式はあったが、コロナ禍を経て完全に定着した感がある。

 これは運営上、きわめて合理的な方法だ。
 参加人数が事前に分かれば、会場の広さ、椅子の数、資料の部数、案内する教職員や生徒の人数などを調整できる。

 逆に自由参加として、想定を大幅に超える人数が押し寄せれば、部屋が足りない、椅子が足りない、資料が足りないといった事態になりかねない。
 せっかく学校に関心を持って足を運んでくれた人に不便や不快な思いをさせれば、学校のイメージ低下にもつながる。
 
 だから事前申込制、定員制そのものには何の異論もない。
 問題は、定員に達した後である。

◆「定員に達したので終了」でいいのか
 申込サイトを見ると、「定員に達したため受付を終了しました」という表示をよく目にする。
 人気校なら、それも仕方ないのかもしれない。

 毎年高倍率になることが約束されているような学校であれば、多少の取りこぼしがあったところで、直ちに募集上の問題になるわけではない。
 しかし、すべての学校がそうではない。
 定員を確保できるかどうか、毎年ギリギリのところで戦っている学校も少なくない。

 そういう学校が、せっかく自校に関心を持ち、わざわざ申込みまでしようとしてくれた人に対して、「定員に達しましたので終了です」で済ませていいのか。

 マーケティングの世界では、これは典型的な「機会損失」と考えられる。
 説明会に申し込もうとする人は、学校にまったく関心のない人ではない。
 学校名を知り、ホームページを見て、開催日程を調べ、参加しようと考え、申込画面まで進んできた人だ。
 企業の営業活動の視点で言えば、「見込み客」をここまで持ってくるのに、何百万、いや何千万かかるかという話だ。
 そういう人たちを、満席だからという理由だけで手放してしまうのは、いかにも勿体ない。

◆「満員御礼」は成功なのか
 企業のマーケティングでは、販売数や席数をあえて限定する方法がある。
 「限定100個」
 「残りわずか」
 「先着順」
 「今週限り」
 皆さんも何度も見たり聞いたりしているだろう。希少性を演出し、購買意欲を刺激する手法だ。

 学校説明会でも、「残席わずか」と表示すれば申込みを急ぐ人はいるだろう。
 だが、学校が説明会の定員を設ける目的は、人気を演出したり、受験生や保護者を煽ったりするためではない。
 あくまでも安全で円滑な運営のためである。

 したがって、「満席になった」こと自体を募集活動の成功と考えてはいけない。
 説明会の目的は、説明会を満員にすることではない。
 何度も言っているが、最終的な目的は、自校を正しく理解してもらい、その結果として志願者、受験者、そして入学者を増やすことである。

 説明会の満席は、その途中経過の一つの数字に過ぎない。
 むしろマーケティング的には、「満席になったあと、さらに何人が参加したかったのか」の方が重要だ。

 仮に定員400人で400人集まった。
 学校側は「400人も来てくれた」と満足する。
 しかし、その裏側でさらに200人が申し込もうとしていたとしたらどうか。
 本当の需要は400人ではなく600人だったことになる。
 ところが、定員に達した瞬間に申込フォームを閉じてしまえば、その200人の存在は永遠に気づくことができない。

◆満席後も受付を続ける
 そこで考えてみたいのが「キャンセル待ち」や「追加開催希望」の登録である。
 これは実践している学校が結構ある。

 定員に達したら申込みを完全に終了するのではなく、
 「今回分は満席ですが、追加開催を希望される方はこちらから登録してください」という形にする。
 超過分(定員オーバー分)の人数が把握できれば対策が立てやすい。
 「50人なら次回説明会を優先案内する」
 「100人なら午後の部を追加する」
 「200人なら別日程で追加説明会を開く」
 といった形で、実際の需要を把握しながら柔軟に対応できる。

 今年、杉戸高校は夏休み中前半の説明会が満員になったことを受け、年間予定にはなかった追加説明会を実施している。
 ここは、以前から申込状況を見つつ定員枠を増やしたり、追加開催を行ったりしている。

【8月25日(火)の杉戸高校①】ミニ学校説明会お礼メッセージ(杉戸高校ホームページ)

 熊谷女子高校も、急きょ追加の説明会開催を発表している。

【急遽追加開催】「ミニ学校説明会」実施のお知らせ(熊谷女子高校ホームページ)

 こうした対応は、マーケティングの視点から見れば、「需要に合わせて供給能力を調整している」という意味で非常に理にかなっている。

◆募集に苦戦する学校は断るべきではない
 特に気になるのは、志願者確保に苦労している学校である。

 毎年高倍率になる学校ならともかく、募集定員を確保できるかどうかという学校が、せっかく関心を示してくれた人を断るというのは、マーケティング的には実に不可解だ。

 たとえば300人募集の学校が、説明会で100人を断ったとする。
 その100人全員が受験してくれるわけではない。
 しかし、その中から10人、20人が志願してくれた可能性は十分ある。
 追加説明会を半日開くための労力と、10人、20人の志願者を失う可能性。
 どちらが大きいか。
 私立高校なら経営上の数字としてかなり分かりやすいが、公立高校でも、志願者減少による学級減や再編といった問題を考えれば、決して他人事ではあるまい。

◆「聞く権利」に応えるのも学校の役割
 ここまでマーケティングの話をしてきた。
 が、学校にはもう一つ別の側面がある。

 私立も含めて、学校は公教育を担っている。
 公教育には、自校に関心を持ち、教育内容や入試について知りたいという人に対して、できる限り情報を届ける責任があるのではないか。

 受験生・保護者側から見れば、いわば「聞く権利」である。
 もちろん会場には物理的な限界があるから、「聞く権利があるのだから、体育館に無理やり入れろ」という話にはならない。
 大切なのは、「満員です。以上」で終わらせないことである。
 「今回は満席ですが、次はこちらがあります」と次の入口や接点を示す。
 それにより、公教育としての情報提供責任と、募集マーケティング上の機会損失防止を両立させることができる。