埼玉県公立高校の外国語科はなぜ人気がなくなってしまったのですか?
 これ、現職の公立高校英語科の先生からのご質問。

 お答えの前に、とりあえず現状をおさらいしておこう。

【第2回進路希望状況調査(令和4年12月15日現在調査)の結果】
 春日部女子 0.98倍
 越谷南   0.98倍
 坂戸    0.78倍
 草加南   0.70倍
 南稜    0.95倍
 和光国際  1.20倍
 蕨     1.05倍
 ※全体   0.98倍
 なるほど。
 これはひどい。
 唯一80人募集の和光国際が健闘しているが、他の学校は40人が集まらない。蕨を除く5校が現時点では定員割れ状態だ。
 結果的には、出願時に1倍まで回復するかもしれないし、第2志望合格と合わせて定員確保となるだろうが、学科人気としては、現状の数字が示すとおりだ。

◆10年前は定員割れ無し
 手元に今から11年前、平成24年(2012年)の入試結果がある。
 それによると、最終結果倍率は次のとおりだ。

 春日部女子 1.25倍
 越谷南   1.05倍
 坂戸    1.10倍
 草加南   1.08倍
 南稜    1.18倍
 不動岡   1.12倍
 和光国際  1.41倍
 蕨     1.60倍
 ※全体   1.24倍

 飛びぬけて高いとは言えないが、この年の普通科全体倍率が1.15倍だったことを考えれば、そこそこ高い人気を誇っていたことが分かる。

◆外国語科のはじまりは
 埼玉県公立高校で初めて外国語科を設置したのは和光国際である。
 昭和62年(1987年)に校名に「国際」を冠した初めての学校として誕生した。
 
 当時、私はまだ現役の教員であった。
 「国際とは大きく出たな」
 「外国語科はいいとして、なんで情報処理科があるんだよ」
 などと、無責任な感想を言い合っていたものだ。
 (まだ30代の若僧だったので)
 ちなみに、いま現在は情報処理科はない。
 それはそうだ。商業高校じゃないんだから。

 昭和の終わりごろ、学校の特色化を図れという県教委の大号令で「普通科・〇〇コース」の設置が相次いだ。
 私の勤務校では「国際文化コース」というのを、やっつけ仕事で作った。
 もちろん、とうの昔に消滅したが。

 そんな中、たしか平成元年(1989年)だったと思うが、南稜に「普通科・外国語コース」ができた。
 これが後に外国語科となる。
 次いで不動岡、さらには春日部女子、蕨などにも外国語科が設置され、現在の陣容となった。
 余談だが、今は学校そのものがなくなった市立熊谷女子にも外国語科があった。

◆スーパーイングリッシュハイスクール
 平成14年(2002年)に文部科学省が2つのプロジェクトを開始した。
 一つは「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」。
 もう一つが「スーパーイングリッシュランゲージハイスクール(SELHi)」。
 (長ったらしいのでセルハイと呼ばれた)

 この時点では外国語科にも勢いがあった。
 和光国際、南稜、蕨、春日部女子などが指定校となった。
 外国語科はないが、伊奈学園や松山女子も指定校となったことがあるはずだ。
 これは、まあまあ学校のウリにはなった。

 ところが、セルハイは平成21年(2009年)に終了してしまう。
 サイエンス(SSH)が今なお形や内容を変えながら継続しているのとは対照的だ。

 セルハイをやめた文部科学省が代わりに打ち出してきたのが、スーパーグローバルハイスクール(SGH)だ。
 ランゲージからグローバルへ。
 外国語から国際へ。

 再び余談だが、平成24年(2012年)には、東京外国語大学が外国語学部を廃し、言語文化学部と国際社会学部を設置した。
 ならば外国語大学もやめて、国際大学にすれば良かったが、すでに同名の私立大学があった。

◆ランゲージだけの時代じゃない
 さあこれからは外国語だ。
 と、意気込んで、わざわざ外国語専用の新校舎まで建設した外国語科設置校としては、梯子をはずされたような感じだ。

 最初から「国際」という名前でスタートした和光国際は、時代がむしろこっちに近づいてきたようなものだから良かった。
 不動岡もうまく方向転換した。
 時代の流れを察知した不動岡は、外国語科設置校でありながら、セルハイではなくサイエンス(SSH)の指定を受け、次いでSGHの指定を受けた。
 そして、ついには外国語科を廃止した。
 そのまま続けていれば、赤字(定員割れ)が常態となり、ある種お荷物的な存在となり、学校のブランドイメージにも影響しただろう。

 他の学校も、もはやランゲージでは持たないと感じていると思うが、そう簡単には廃止や学科転換はできない。
 県内最古の歴史を誇る伝統校・不動岡だから、このような対応が出来たというところかもしれない。

 繰り返すが、時代はランゲージからグローバルなのだ。
 外国語が書けたり話せたりは、全員必須となり、その上でグローバル感覚を磨くのがこれからの時代だ。
 普通科に行こうが、専門学科に行こうが、みんなランゲージはやろうぜ。
 世の中が急速にそういう雰囲気に転換した。

 じゃあ、わざわざ外国語科に行く意味って何なのよ。
 当然、そうなる。 
 
 時代の先端を行くはずだったが、気づいてみれば周回遅れ。
 置いてけぼりになった外国語科。
 これが人気薄になった理由だ。
 このままでは、数学嫌いのたまり場になってしまう。
 今だって、そういう傾向があるが、さらに顕著になる。

◆残された道は、廃止か転換
 断っておくが、外国語科に行く意味がないと言っているのではない。
 英語や国際関係に興味がある生徒にとっては、恵まれた環境だ。
 外国人教師もたくさんいる。
 大学進学の際の選択肢も広い。

 ここで私が述べているのは、あくまでも学校経営視点、あるいは学校マーケテイング視点からのものだ。

 マーケテイング視点からの話をするなら、理数科の方がはるかに上手く行っていると言える。
 理数科がある学校には、大宮、越谷北、所沢北など全県トップレベルや地域トップレベルの学校が含まれる。
 つまり、ブランドイメージが高い。
 それに対し外国語科は、不動岡が抜けてしまったので蕨が最上位レベル。
 学校選択問題採用校も蕨と和光国際だけ。
 7校中、松山を除く6校が学校選択問題採用校である理数科とは、大きく差が付いている。
 理数科と外国語科は、進学を主体とする専門学科である以上、私立で言う「特進(特別進学)」的な役割が期待される。
 しかし、現状の外国語科は全体として見て、そのような期待に応えられていない。

 普通科に吸収合併してしまうか、思い切ってグローバルに舵を切るか。
 そのどちらかだろう。