参議院埼玉地方区の補欠選挙が始まった。補欠選挙は公職選挙法の規定により、原則として4月と10月にまとめて行われる。

 当初、有力な候補者は上田清司・前埼玉県知事のみで無風選挙と見られていたが、7月の通常選挙で当選したばかりのN国党(NHKから国民を守る党)党首・立花孝志氏が、突如立候補し、一転注目の選挙となった。

 昨日、立花候補は浦和駅西口で第一声を上げた。私は仕事の関係でたまたまその場面に出くわしたが、平日昼間にもかかわらず大勢の聴衆が詰めかけていた。街宣車の上には、上杉隆同党幹事長、渡辺喜美参議院議員、丸山穂高衆議院議員の姿があった。

 渡辺喜美氏(みんなの党)の貫禄はさすがだ。演説に慣れてる。同氏の父・故渡辺美智雄氏(自民党)はかつての総理総裁候補であり国民的人気もあった。上田候補は若いころ、その美智雄氏の政策ブレーンであった。このことは、上田候補の公式HPに書いてある。親父のブレーンであった上田候補がその息子と対決するわけだ。

 丸山穂高氏。彼もまた演説が巧みだ。ノー原稿でよくあれだけ言葉が次々と出てくるものだ。中身はともかく、そこは感心。酒を断つことだな。

 立花候補本人。
 「NHKをぶっ壊す」から「既得権益と戦う」に軌道修正を図っているようだ。
 昨日の聴衆は、もしかしたら埼玉県民よりも、県外からやってきたファンの方が多かったかもしれない。すでにYouTubeで彼の主張や行動をよく知っている人々だ。立花候補の言葉一つ一つに対する反応の良さ、ノリの良さから、そのように感じた。

 つい最近、NHKさいたま放送局(市役所のそば)を通りかかったときのことだが、小学4、5年生と思しき集団とすれ違った。社会科授業の一環だろうか。
 彼らは口々に「あっ、NHKだ」と叫んでいる。それがどうした。NHKがそんなに珍しいか。私は最初、意味が分からなかった。だが次の瞬間、男子数人が小声で発した言葉を聞き、了解した。「NHKをぶっ壊す」。
 そうだよな。なりたい職業にユーチューバーをあげる世代だ。

 地上波テレビや新聞・雑誌などオールドメディアを主たる情報源にしている人々にとって、立花候補は無名または悪名の人である。一方、ネットやYouTube、SNSなどに軸足を移している人々にとって、立花候補は有名人でありヒーローである。ホリエモンこと堀江貴文氏も選挙ポスターの掲示責任者として名前を貸しているほどだ。

 この選挙は「テレビ・新聞VSネット・SNS」という視点で見ると、きわめて興味深い戦いだ。

 高齢者や組織の票は上田候補に集まることは分かっている。ちなみに平成時代に埼玉地方区では2回の補選が行われているが、投票率は27%と17%だった。通常選挙では50%を超えるのが普通だから、いかに関心が低い選挙であるかが分かるだろう。
 テレビ・新聞は選挙そのものを大きく取り上げないと予想できる。国政選挙ではあるが埼玉ローカルだからである。かくしてこの選挙は低投票率となり、そうなれば上田候補圧勝である。

 立花候補が肉薄し、または逆転するとしたら、若い世代や浮動層が選挙に行き、かつてない高投票率になることだ。
 立花候補本人も言うように、武器はインターネットのみだ。年寄りが変わらないのは最初から無理と分かっていることだが、はたしてこれによって若い世代の行動をどれだけ変えられるか。私の興味関心はそこにある。