確約をもらっていても落とされることはあるのか?
 受験生からしばしば寄せられる質問だ。
 
 これに関しては公表されている資料がない。
 それも当然で、そもそも表向きにはこのような制度はないことになっているのだ。
 私立学校側も公の場面で「確約」という言葉は使わない。
 さまざまな表現を用い、合格が確実であることを伝え、それを受験生側が「確約」を取れたと受け取っているのだ。

 そういうわけなので、私たち外部の人間は、それぞれの学校が何人にいわゆる「確約」を出したか、また、そのうち何人が実際に応募し受験したか、さらには、そのうち何人が合格したかは分からない。
 よって、「確約をもらっていても落とされることはあるか?」に対する答えは「分からない」である。
 確かなデータがないのだから、あるともないとも言えないのである。
 少なくとも、日頃直接受験生を指導する立場にない私には「分からない」としか答えようがない。

 中には、身近に落とされた人がいて、それをもって落とされることもあると言っている方もいるかもしれないが、本当に確約をもらえていたのか、また、高校側が本当に確約を出していたのかまでは確かめようがない。

 ただ、100%落とされることはないと断言できないまでも、きわめて稀なケースであろうとは推定できる。
 
 昨年度の具体例な数字で見てみよう。
 データは埼玉県私立中高協会による集計などを参照した。
 ▼A校の場合
 単願志願者 402人
 同合格者  390人
 同不合格者 12人
 志願者に対する合格者の割合は97.0%
 同不合格者の割合は3%
 
 ここで分かるのは、単願と言えども100%全員合格ではないことだ。
 仮に志願者全員が確約をもらっていたとすれば、最大3%は確約がありながら不合格だったことになる。
 で、ここからは私の取材によるが、学校によれば不合格の12人の中に確約者はいないということだ。

 ▼B校の場合
 単願志願者 444人
 同合格者  435人
 同不合格者 9人
 志願者に対する合格者の割合は98.0%
 同不合格者の割合は2%

 ここでの取材結果も、確約ありで不合格となった者はいないということだ。
 全校くまなく取材したわけではないが、確約ありで不合格というのはレアケースであろうというのが私の推測だ。

 事前相談で確約をとれなくても志願し受験する生徒はいる。
 学校側もそれは拒否しない。
 そして、当日の学力検査の得点が良ければ合格を出す。
 成績の良い生徒をあえて不合格にする理由はない。

 確約をもっていながら、当日の学力検査で失敗する生徒も中にはいるだろう。
 しかし、そうした事態に対するセーフティーネットとして、確約という仕組みがあるわけだ。

 当日の点数が悪ければ落とす。調査書点や模試偏差値はあくまでも加点要素。
 そのように公言していれば別だが、そうでない限り、ちょっとやそっと点数が悪いくらいでは落とさない。
 これが私立学校側の基本的な姿勢であろう。

 早い段階で確約をもらってしまった生徒の中には、その後勉強への意欲を失い、力を落としてしまった人もいるかもしれない。そういう生徒は、学校側としても本音では不合格としたところだろうが、それはできない。もしそうしたら、以後その学校の確約はあてにならないということで信用が失墜してしまう。確約というのは、ただの約束ではなく、確かな約束なのだから、点数が悪くても合格なのである。

 ただ、本当に本当に稀なケースだが、試験中ずっと寝ていたり、一切問題を解こうとしなかったり、面接で一言も答えなかったりという生徒もいるそうである。これはもう本人が落としてくれと言っているようなものだから、確約があろうがなかろうが落とすのは当然だ。

 確約があっても落とされますかと聞いてくる子は、真剣に試験に臨もうと思っているんだろう。
 やる気のない子は質問すらしてこない。

 私はその昔、今の受験生が生まれるはるか前に公立高校の教員をしていた。
 で、その当時の経験だが、試験官は受験生の挙動をしっかり見ている。
 何かおかしな行動があれば、責任者に報告する。
 具合が悪いのに我慢している子がいるかもしれないではないか。
 受験生をしっかり観察するというのは、安全に、滞りなく試験を遂行するために欠かせない任務なのだ。

 だから、あらゆる場面を見られていると思ったほうがいい。
 もちろん、真剣に問題に取り組んでいる姿だって見ていてくれる。
 
 確約があっても落とされる場合があるぞと塾の先生が言うのは、気を引き締めるためだろう。これも言い方を変えた激励だ。