高齢者はこの時期になると必ず次のような一言を漏らす。
 「1年があっという間だった」。
 むろん私も正真正銘、高齢者であるから堂々と言う。
 「今年もあと3日か。月日の経つのは何と早いことよ」。

 1年を早く感じる理由については、「ジャネーの法則」による説明がよく知られている。
 主観的(心理的)に感じる時間の長さは年齢に反比例する。
 だいたいこんなところだと思うが、関心のある人は自分で調べてくれ。

 私は「1年」というやつを、もう71回も経験している。
 これだけ繰り返していれば、慣れっこになって短く感じるのも当然だ。

 つい最近会った30代前半の若者が「1年過ぎるのが早く感じるようになった」と爺(婆)臭いセリフを吐いていたが、こっちはその倍だぞ。
 そっちが緩やかな坂道を下るほどのスピードだとしたら、こっちは急坂を転げ落ちるようなスピードだ。止まりたくても止められない。
 老いはさらに加速し、ゴールにまっしぐら。

 あっという間に時間が過ぎるということは、あっという間に向こうの世界へ行ってしまうということだ。
 別にそれでもいいような気もするが、もうちょっとノンビリ向かってもいいのかなとも思う。

 昨日、わが社で映像部門を担当しているH君がこんなことを言っていた。
 「同じ道を通っちゃダメですよ」。
 彼はバイク乗りだ。
 撮影の仕事では機材を運ぶため、どでかいワゴン車を使うことが多いが、プライベートやちょっとした移動はもっぱらバイクだ。東北でも関西でも、どこにでも行く。

 対する私は、そもそも移動するということが嫌いだ。
 車もあるが、自分で運転するのは面倒なので、移動には電車を使うことが多い。
 だから運転がどんどん下手になる。
 「もう少しクルマを使わなきゃいかんな」
 そう私が呟いたときの彼の返しが「同じ道を通っちゃダメですよ」だ。

 彼曰く「通勤とかスーパーやコンビニ行くとか、毎日同じルートを辿るのは運転じゃない」。
 なるほど、そうかもしれない。
 知らない道を走る。
 知らない場所を目指す。
 そうしないと刺激にならない。
 緊張感もないし、感動もない。
 
 言われてみれば確かに、同じ道を通って同じ場所にしか行ったことがない。
 1年間の記録を振り返ってみたが、ここは初めてという経験をしていない。
 皆無ではないが、数えるほどしかない。

 運転技術もさることながら、これでは「1年間があっという間」と感じるのも道理だ。
 では、来年は知らない道を走ってみよう。
 知らない場所、行ったことがない場所に行ってみよう。
 別に遠くである必要もないだろう。
 近場にだって、知らない道や知らない場所はいくらでもある。

 そうだ。ジョギングのコースも変えてみよう。
 安全面やペースの確認のため、同じ道、同じ場所ばかり走っている。

 そうすれば、時の流れの感じ方も少しは変わってくるかもしれない。
 試してみよう。
 結果は1年後に報告する。