受験生保護者から、「来年の公立入試はマークシート方式になるので、問題が易しくなるのではないか、平均点が上がるのではないか」と問われた。
 なるほど。
 たしかに、そう考えたくなる気持ちはよく分かる。

 「だって、書かなくていいなら楽じゃないですか」
 「四択なら、最後は勘でも何とかなるでしょう」
 と、そこまで露骨ではなかったが、気持ちとしてはそんなところかもしれない。

 埼玉県公立高校入試では、令和9年度入試から学力検査にマークシート方式が導入される。ちなみに首都圏では最後である。
 すべてが選択式になるわけではなく、得点換算で約1割は記述式が残る予定だが、それでも文章を書いて答える問題が大きく減ることは確かである。
 ならば、受験生の負担は軽くなり、平均点も上がるのではないか。

 そう考えたくなるが、実は、それほど単純な話ではない。

◆「書かなくていい」は何気に有利そうだが
 記述式では、問題の意味は分かっていても、うまく文章にまとめられなかったり、表現が不十分だったりして点を失うことがある。
 だが、マークシートなら、正しい選択肢を見抜けばよい。

 完全には分からなくても、「これは違う」「これも違う」と消去していけば、最後に二択になることもある。
 ここまで絞れれば、神様に祈るより確率は高い。
 そういう意味では、記述式から選択式への変更は、得点しやい方向に働く可能性がある。

 だから、「平均点が少し上がるのではないか」という予想そのものは、まったく根拠のない話ではない。
 ただ、ここから「では問題そのものも易しくなる」と話を進めると、少々危うい。

◆マークシートでも難問は作れる
 マークシート方式とは、あくまで解答方法の話である。
 たとえば、「理由を30字以内で説明しなさい」という問題を、「最も適切な理由を四つの中から選びなさい」に変えたとする。

 一見すると、後者の方が簡単そうに見える。
 しかし、四つの選択肢がどれももっともらしく、本文や資料を正確に読まなければ見分けられないようにすれば、十分に難しい問題になる。

 数学でも同じである。
 答えを数字で書かず、選択肢から選ぶ形になったからといって、そこに至るまでの思考までもが自動的に簡単になるわけではない。

 つまり、「マークシートになる」、イコール「問題が易しくなる」ではないのである。

 選択肢の作り方、資料の量、設問の組み合わせ、問題文の長さなどによって、難易度はいくらでも調整できる。

◆平均点が上がれば「易化」なのか
 もう一つ、気をつけたいのが平均点の見方である。

 平均点が低い。
 だから問題が難しかった。
 平均点が高い。
 だから問題が易しかった。

 日常会話としては分かりやすい。
 しかし、数学的にはそこまで単純ではない。
 平均点は問題の難易度だけで決まるわけではない。受験者集団の学力、出題分野、問題構成など、さまざまな要因の影響を受ける。
 したがって、仮に来年の平均点が今年より5点上がったとしても、「やはりマークシートになって簡単になった」と即断することはできない。

 むしろ注目したいのは標準偏差だろう。
 標準偏差は平均値からの散らばり具合(ばらつき)を表す指標で、偏差値算出のもとになる数字だ。
 たとえば、令和8年度公立入試(学力検査問題)では、国語「17.28」に対し、英語「22.17」と発表されている。国語はよく出来た人とあまりできなかった人との差はそれほど大きくないが、英語の方はその差が大きく、学力差が得点差となってあらわれた試験だったのではないかと見ることができる。

◆「マークシートだから」という謎の安心感
 というわけで、質問してきた保護者には、
 「マークシート化で、多少、得点しやすくなる可能性はあります。ただ、それを『簡単になる』と受け取らない方がいいですよ」と答えた。

 怖いのは、「来年はマークシートだから」という謎の安心感である。
 「マークシートだから記述の練習は要らない」
 「マークシートだから今年より楽だろう」
 いや、そうじゃないんだよ。

 選択式で正解を選ぶためにも、結局のところ、文章を正確に読む力、資料を読み解く力、知識を組み合わせて考える力が必要になる。
 書く量が減るのであって、考える量まで減るわけじゃない。

 「マークシートになったから少し楽になる」と考えて油断した受験生と、「形式は変わっても、問われる学力の本質はそう変わらない」と考えて準備した受験生とでは、ちゃんと差がつきますよ。

◆詳しくは、その道のプロへ
 と、ここまで偉そうに書いてきたが、入試問題の難易度や得点分布、過去問分析といった話は、塾の先生方がもっとも得意とする分野である。
 毎年大量の受験生を見て、模試の結果を追い、過去問を分析し、実際の合否まで見届けている。

 私のような外野は、制度の構造や傾向をある程度語ることはできても、実戦的な話では、現場の蓄積にはかなわない。
 だから、分からないことや不安なことがあれば、その道のプロである塾の先生に尋ねるのが一番いい。

 令和9年度入試は制度変更初年度である。
 平均点がどうなるかは、実際に試験が終わってみなければ分からない。
 ただ一つ言えるのは、「マークシート化=易化=平均点上昇」という一直線の話ではないだろうということだ。

 これまで通り基礎基本を固め、問題文を正確に読み、考え、答えを導く力を身につけること。
 結局、入試の形式が変わっても、最後はそこに戻ってくるのである。