原稿書きでクソ忙しいときに銀行員が来た。上司に営業に行って来いと尻をひっぱたかれたんだろう。
 私はこの銀行から融資を受けている。つまり金を借りている。だから彼らに対して態度がデカイ。
 えっ、逆じゃないの?
 普通、金を貸している方が強くて、借りている方が弱いんじゃないの?

 まあ、そうかもしれない。
 だが、それは借りるまでだ。
 銀行も商売だから、なかなか中小零細企業には貸そうとしない。
 そこを何とかだましだまし融資にこぎつける。

 さあ、首尾よく借りたらこっちのもんだ。
 もちろん返済はするよ。5年10年の長期スパンで返して行く。でも、仕事がうまく行かなくなって返せなくなるかもしれない。
 通常、個人保証付き。つまり会社が倒産して借金返せなくなったら、連帯保証人である社長が個人で返済しなきゃならないが、会社が倒産してるのに返せるわけないだろう。

 まあ、最近の中小に対する融資は、いざという時は信用保証協会というところが代わって返済する制度を使うことが多いので、銀行はそれほど損をしないわけだが、担当した銀行員の経歴には傷がつくな。単に金額の問題じゃない。
 なにせ銀行というところは、徹底した減点主義の組織だから。これは避けたい。

 ということで、借りた私は返せなくなったらそれまでだと腹をくくっているが、貸したほうはそうはいかないから、何とか商売上手くやってくださいね、となる。言われなくても分かってるよ。

 まだ入行数年の若い子だ。つい最近も同期が立て続けに2人辞めたんだって。
 銀行とか証券とかは昔からそういう採用をするんだ。ドサっと採っといてふるいにかける。最初から辞めるの前提で採ってるんだ。
 学校とか公務員ではそういう採用はしないが企業、特に大企業では当たり前。
 まあ、辞める方も若いうちのほうが労働市場での価値が高いからそれでいい。

 だから、言ってやった。
 キミも辞めるなら今のうちだ。どっちみち40過ぎりゃリストラの対象になるのは先輩や上司を見てりゃ分かるだろう。
 が、しかーし、である。
 キミが今持っている唯一の武器は若さだけである。
 この私も、キミに負けるのは若さだけだと思っている。他のことは知識でも技術でも経験でも全部勝ってる。

 分かってると思うが若さは永遠ではない。年々確実に失われるものである。
 だから、若さと引き換えに何ものかを獲得して行かなければならない。
 
 キミは今の職場でどんな知識を学んだのだ。どんな技能を獲得したのだ。
 考えてもみろ。普通、人は何かを学ぼうとするとき、授業料を払うのだ。
 それを、会社というところはタダで教えてくれようというんだ。どころか、逆に金までくれる。

 一ついいことを教えてやろう。みんなが嫌がる仕事を引き受けろ。理由は簡単だ。そこなら一番になれるからだ。みんながやりたがることはライバルが多過ぎて勝つのが容易ではないが、みんなが避けることなら一人勝ちだ。
 一緒になって陰で部長の文句言ってる場合じゃない。すぐに帰ってクソみたいな仕事に取りかかれ。辞めるのはそれからだ。

 と、金を借りている分際でやけに威勢のいい、じゃなくて態度のデカイ私であった