この施策って、どうなんだろう?と思わざるを得ないのが、特別支援教育に関する文部科学省の新たな方針だ。
 これに関するニュースはこちら。
 特別支援教育「全教員が2年以上の経験を」文科省検討会議(毎日新聞)
 一般紙では毎日新聞しか見つからなかった。
 

 例によって、この記事の元ネタを当たってみよう。
 文部科学省のHPにあるはずだ。
 が、見つけるのに結構苦労してしまった。

 トップページ>政策・審議会>審議会情報>会議資料>と辿って行くと、この記事の元ネタであろう資料が見つかる。

特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議 報告(素案)

 A4判27頁のうち13頁あたりに、たぶんここだろうと思われる記述があった。
 その部分、抜粋する。
「教育委員会及び校長は、全ての新規採用教員がおおむね 10 年目までの期間内において、特別支援学校の教師や、特別支援学級、通級指導教室の担任を複数年経験することとなるよう、人事上の措置を講ずるよう努めること。」(太字は筆者による)
 
 また、こうも記されていた。
「教育委員会及び校長は、主幹教諭、指導教諭及び管理職のキャリアパスとして、特別支援学級担任、通級による指導の担当や特別支援教育コーディネーター等の特別支援教育に関する経験を組み込むよう配慮すること。」(太字は筆者による)

 以上である。
 新卒教員は10年以内に、特別支援学校や特別支援学級の担任を複数年、つまり2年以上経験できるように人事上の措置を講ずるように努める。
 努力目標のようなので義務化されるわけではないだろうが、本決まりとなれば各都道府県はこれに沿って人事を行うことが予想される。

◆特支(とくし)は貴重な経験
 2日前のブログで、私が短期間ではあるが、今で言う特別支援学校の教員を経験したことを書いた。
 それがどうしたと思われた方もいると思うが、この記事を書くための伏線であり、今それを回収しているわけである。

 半年という短い期間ではあったが、教員生活のスタートが結果として特別支援であったことは、個人的には幸いであったと思う。
 私が勤めた学校は、知的障がいの児童生徒だけでなく重度の肢体不自由児も通学していた。自力で歩けない、トイレも行けない、食事もできない、喋れない、見えない、聞こえない。そういう子たち。

 先生たちは、子供を抱きかかえる動作を頻繁に繰り返すため、それで足腰や腕を負傷し病休になるケースが多いようだ。そこで若い我々が補助に入る。
 身分はすでに書いたように臨時免許状を得ての非常勤講師だ。
 私は高校の採用試験に受かっていて4月から教諭として、どこかの高校に本採用となる。その半年前の話だ。
 同じような境遇の仲間が何人かいたが、皆保健体育で受かった人たちだった。社会科の私がなぜ選ばれたかは不明だ。

 朝の始まりはちょっと遅めで、昼食(給食)をはさんで午後2時過ぎには放課となるわけだが、目は離せない、手も離せない、付きっきり状態であるから、トイレにも行けないのは参った。
 もちろんこれは、重度の肢体不自由児もまざっている学校の例であって、普通の小中学校に設置されている特別支援学級では、そんなことはないだろう。

◆どこまで実現性があるか
 個人としては、教員生活の始まりに、このような機会を与えられて、本当に良かったと思う。
 だから、若い先生方に特別支援学校や特別支援学級を経験してもらうのは良いことだと思う。

 だが一方、その道の専門的教育を受けていない教員が、担任など重責を担って良いのだろうかとも思う。
 新規採用教員と言えば、教員免許を持っているとは言え素人同然だ。まして特別支援に関しては無免許。
 教育を受ける側、すなわち児童生徒、保護者側からすれば、教育実習や教員研修の場に使われているようなものだから、はたして理解し納得してもらえるだろうか。

 特別支援教育をさらに充実させようという方向性に異を唱える人はいないだろう。
 だが、そのための方策として、「全ての教員に特別支援経験を」というのは、弊害も多く実現性に乏しいのではないかというのが目下の私の結論だ。