皆さんは星善博(ほし・よしひろ)という詩人をご存知か。ご存知ない方はぜひWikipediaでお調べいただきたい。
 なのだが、調べるのが面倒な方もいると思われるので履歴の一部を紹介しておこう。

 2005年 詩集「水葬の森」で第15回「日本詩人クラブ新人賞」受賞。
 2008年「日本詩人クラブ新人賞」選考委員。
 2010年  東京大学駒場Ⅰキャンパス「ファカルティハウス」にて講演。
 2011年4月より「朝日新聞」詩の投稿欄の選と選評を担当。
 2018年 詩「消える」で日本詩歌句随筆評論協会賞 受賞。
 2019年 「日本詩人クラブ賞」選考委員長。
 越谷市在住。日本ペンクラブ、日本詩人クラブ、日本現代詩人会、日本文藝家協会、埼玉詩人会会員

 と、まあ詩の世界では著名な方なのである。
 では、詩人・星善博の最新作を一つ。
 

見えない線の上で  星善博

 あなたはどこに住んでいますか
 
 わたしは
 北緯三十五度五十六分
 東経百三十五度四十七分
 ここで息づいている
 そして北緯三十五度の見えない線の上を
 二十四時間という単位でめぐり続けている

 長野県開田村の見知らぬあなたへ
 木曽川のみなもとの水は 朝の光にぬれて
 どんなふうにかがやき
 におっているんでしょう

 あの日 すれちがっていたかもしれない蘭州のあなたへ
 黄土高原から吹きつける砂嵐の痛みを
 わたしは知らないまま
 恵まれた旅人として ひとり通りすぎてしまった

 エーゲ海 神々たちの末裔のあなたへ
 わたしには神アレスだけが人の心の片隅に巣をつくって
 現代に生きのびていると思えるときがある

 北緯三十五度の線の上で
 永遠に出会うことのないまま
 同じ空間を共有しつつ生きているあなたたちへ
 わたしはときどき酒に酔って
 この見えない線の上から 宇宙の真っ暗闇に
 転落していく夢を見ることがある

 普段、瞬間頭に浮かんだ言葉をただただ書き殴っているだけの私の文章とは違って、言葉の一つ一つがまるで宝石のようだね。
 目で見て美しく、音で聞いて心地よい。
 私は、開田村も黄土高原もエーゲ海も知らない。行ったことがない。
 だから具体的なイメージが浮かばない。
 なのに、心の中に風景が広がる。
 これ、不思議な感覚。

 一応、著作も紹介しておこうか。
 
 詩集「水葬の森」
 アマゾンで調べたら残念ながら在庫なし。

 こっちは在庫あり。
 詩集「静かにふりつむ命のかげり」
   

 で、最後にネタばらし。
 この詩が入ったポストカードを昨日、春日部共栄中学校・教頭であるご本人からいただいた。