「今から勉強して、受験に間に合いますか?」。これ、この時期受験生からよく聞かれる質問。講演会などで、保護者からも質問されることもある。
 高校の教員をやっていたときも、結構よく聞かれた。なにせ私は3年の担任ばかりやっていたから、年中行事みたいなもんだ。

 答えは簡単。より正確に言えば、答え方は簡単。 
 「あと3か月もあるんだ。間に合うに決まってるだろ」。
 聞いてくる子は、要するに不安なんだ。だから、ちょっと無理なんじゃないのと思っても、大丈夫と言ってやる。
 中には、一向にエンジンがかからない子もいる。その場合は、「てめえ、このままじゃ全滅だからな。地獄に堕ちろ」と言うこともあるが、今の時代、これを言うと教員としての立場が危うくなる。パワハラという言葉が存在しなかった時代、一体何百人の生徒が私から罵声を浴びせられたことか。

 間に合うか間に合わないかは、実際のところ結果が出てみないと分からないわけだが、仮に受験には間に合わなかったとしても、勉強は受験が終わってからも続くわけだから、その後の高校生活や大学生活の中で生きる。
 そう考えれば、間に合わない勉強というものはない。

 「今から○○して、○○に間に合いますか?」という迷いや不安は、一生のうちに何度も経験することである。
 もう間に合わないと諦めて、その後の努力を放棄すれば、後々、より大きなツケを払わなければならないが、間に合わないかもしれないと思いつつも努力を継続すれば、いつか報われる。

 という話は、子供には案外伝わるのだが、受け入れない親が結構いるから困ったものだ。
 「無理なら無理とはっきり言ってください」
 「無駄な努力はさせたくないんで」
 なるほど、あんたはそういう人生を送ってきたわけだ。可哀想に。

 しかし、子供の教育を任された者としては、親が悪いじゃ片付けられないからな。
 子供たちにはこう言ってやろう。
 「合格することが分かっていたら勉強なんてしないだろ。逆に不合格が分かってても勉強しない。だからさ、最初から結果が分かってることに努力するヤツなんていないんだよ。おれ達が頑張れるのは結果が分からないからなんだ」。