2020年度埼玉県公立入試社会科で次のような問題が出題された。
 明治以降の歴史を扱う大問4の問1である。
 なお、2020年度とは、一昨年の入試ということだ。後で述べるが、この一昨年というところが本日の話のミソである。
 
 問1 次のア~エは、年表中Aの時期のできごとについて述べた文です。年代の古い順に並べかえ、その順に記号で答えなさい(3点)
 ア 会議を開いて世論に基づいた政治を行うことなどを示した、五箇条の御誓文が発布された。
 イ 板垣退助らが、民撰議院設立建白書を政府に提出した。
 ウ 版籍奉還が行われ、藩主に土地と人民を政府に返させた。
 エ 内閣制度ができ、伊藤博文が初代の内閣総理大臣に就任した。
 【正答】ア→ウ→イ→エ
 【正答率】36.6%

 いわゆる年代の並べ替え問題である。
 配点は3点とやや少なめだが、例年あまり出来が良くない。
 この手の問題では、年号の暗記は必要ない。
 個々の歴史用語を単に言葉として知っているだけでなく、その意味内容を理解し、大きな歴史の流れを把握していれば正答できる。
 出題の意図もそこにある。

 なお、4項目の並べ替えでは、全部で24通りの答えがあり得る。
 適当に答えて正解できる確率は24分の1である。
 しかし、たとえば、これが一番最初と確定できれば、あとの並べ方は6通りになり、正解できる確率は格段に上がる。
 最初と最後、1番と2番といった具合に2つ確定できれば、残りの並べ方は2通りしかない。
 諦めずに、少しでも正解に近づこうとすることが大切だ。

 県教委の後日の分析によれば、この問題では、アとウの順序の取り違えが多かったという。
 1868年 五箇条の御誓文
 1869年 版籍奉還
 たしかに、たった1年の違いでしかない。

 しかし、五箇条の御誓文発布は、明治新政府が真っ先に行った宣言であり、それに基づく具体的な政策の一つが版籍奉還であるから、ア→ウの順番でなければならない。
 また、残る2つ(イとエ)がそれらより後であることは明らかである。
 民撰議院というのは、その言葉から想像できるように国民から選ばれた議院、すなわち議会(今の国会)である。
 1874年、板垣退助らが、これを主張し、後に自由民権運動にもつながった。
 政府はそれを受けて、10年後に国会を作ることを約束し、この間に伊藤博文らを欧州に派遣し、憲法の研究を進めた。
 帰国した伊藤は内閣制度(1985年)を作り、自らが初代内閣総理大臣に就任した。
 その後、大日本帝国憲法が発布され(1889年)、この憲法に基づく第1回衆議院選挙が実施され、帝国議会が開かれた。
 というわけで、イとエの間には10年の開きがあるので、ここを取り違えた人は少なかったようだ。

 さあ、大事な話はここからだ。
 正しく並べ替えが出来た人は、次の問題に移ってもいい。
 間違えた人は解答解説を見て直し、次に進んでもいい。

 が、ここで私は、出来ても出来なくても教科書をいま一度確認することを勧めている。
 アからエまでの文章の中に、「五箇条の御誓文」「板垣退助」「民撰議院設立建白書」「版籍奉還」「伊藤博文」「内閣制度」といった、さまざまな歴史用語や人名が出てくる。これらの中には、今回のこの問題を解くためには、特に必要なかったものもある。
 たとえば、「板垣退助」。
 別に「板垣退助」の名前がなくても、「民撰議院設立建白書が提出された」とあれば、それで十分だ。
 「板垣退助」はこの問題を解くためのキーワードではなく、いわばオマケみたいなものだ。オマケと言い方がまずければ、主役ではなく脇役としておこう。

 ところが、である。
 入試問題では、ある年に脇役だったものが、次の年またはそれ以降に主役に躍り出ることがあるのだ。
 だから、さしあたり目の前の問題を解くためには必要なくても、問題文(選択肢)に出てきた用語や人名などは、念のため教科書でさらっておこう。
 そのように勧めている。
 私の言い方では、これを「深く掘り下げる勉強(学習)」、略して「深勉(ふかべん)」と言う。
 深く掘り下げると言っても、教科書のその部分や周辺を当たるだけだから、それほど多くの時間は必要としない。

 さて、ここで2021年度、すなわち昨年の問題である。
 同じく大問4の問1だ。

 問1 次は、年表Aの時期のできごとについてまとめたものです。まとめ1の中の「P」と「Q」にあてはまる人物名の組み合わせとして正しいものを、下のア~エの中から一つ選び、その記号を書きなさい。
 【まとめ1】 政府を去った「P」らが、民撰議院設立の建白書を政府に提出したことで、立憲政治の実現をめざす自由民権運動が始まりました。政治への意識が高まるなか、民権派の団体の代表者たちは大阪に集まり、国会の解説を求めました。政府は、国会の早期などの急進的な主張をしていた「Q」を政府から追い出すとともに、10年後に国会を開くことを約束しました。自由民権運動は、国会開設に備えて政党の結成へと進み、「P」を党首とする自由党や、「Q」を党首とする立憲改進党が結成されました。
 【選択肢】
 ア P 板垣退助 Q 大隈重信
 イ P 板垣退助 Q 大久保利通
 ウ P 伊藤博文 Q 大久保利通
 エ P 伊藤博文 Q 大隈重信
 【正答】ア
 【正答率】71.6%

 昨年は脇役だった「板垣退助」が翌年には見事主役となって再登場。
 前年の過去問をやり、その流れの中で、問題を解くためには直接には必要がなかった「板垣退助」をチェックしておけば、簡単に出来た問題だ。おそらく「板垣退助」が記載されている教科書のページをめくれば、伊藤博文により大隈重信が追放されたことも記されているだろう。
 今年の脇役は来年の主役
 このようなことが往々にしてあるから、「深勉」という応用学習法はかなり有効なのである。

 上記の問題に関しては、2021年度は「板垣退助」が主役であったが、問題文(まとめ1)の中にある「自由民権運動」や、選択肢の中にある「大久保利通」は脇役であり、この問題を解くにあたっては特に必要のない知識だった。しかし、これらが「ネクスト主役」となる可能性は大いにあるのだ。
 このように、過去問を解く際に、出来た出来なかったで終わらせず、ほんの少しの手間をかけ、問題文や選択肢にも目をやり知識を深めておくと、良い事が起こるのである。

 すでに2回、3回とやっている人は多いと思うが、もし4回目、5回目をやるなら、今度は脇役にスポットを当ててやってみるといい。