学校案内パンフレットに関する話題である。
 過去にも何度か書いている。
 この記事の最後に過去に書いた関連記事を挙げておく。

◆公立のパンフ制作から撤退した理由
 かつては私は、1シーズン10校近い学校のパンフレット制作を請け負ったことがある。
 公立高校のものもあった。
 が、今は公立の仕事は請けていない。
 採算が取れなくなったからだ。

 10年以上前までは、今とは契約方式が違っていた。
 建前として競争入札の形をとったが事実上、随意契約が可能だった。
 つまり、価格も含めて学校側との一対一の直接交渉ができた。

 だがその後、完全競争入札の制度が取り入れられた。
 この方式では、学校側は入札に参加する業者はある程度選べる(3社程度)。
 応札する業者は見積を県の担当部署に提出し、県が落札業者を決定する。
 当然、最安値の業者に決まる。

 税金の使途であるから業者選定に不明朗な点があってはいけない。
 だから、それは仕方ないことだ。
 ただ、価格より内容で勝負をモットーとしていたわが社にとっては痛手だった。
 そこそこの腕を持ったディレクター、デザイナー、コピーライター、カメラマンを起用し、一定以上のクォリティが保証された印刷会社を選ぶと、どうやっても100万からの費用がかかってしまう。
 ところが、完全競争入札になってからは、価格優先、と言うか内容関係なしの価格のみの選定になったため、30万~50万、下手したら20万円台が落札価格となった。
 これでは戦えない。
 というわけで公立の仕事からは完全撤退した。

◆紙パンフの役割
 紙のパンフレットは、かつて唯一にして最強の募集用ツールであった。
 だが、ネットが普及し、人々がさまざまなデバイスを手にした今、主役の座を明け渡すことになった。
 「もう、紙のパンフレットは要らないんじゃないか」
 そんな声も聞かれるようになり、実際に廃止してしまった学校もある。

 こうした時代の流れというものは、決して元に戻ることはない。
 今すぐにということはないが、徐々にその方向に向かって行くことになるだろう。

 では、紙のパンフレットの役割は完全に消滅したのだろうか。
 必ずしもそうとは言えないだろう。

◆プッシュ型営業の必要性
 学校の生徒募集に「営業」という言葉はなじまないとは思うが、私のような民間側の人間からすれば、中学校訪問したり塾訪問したりするのは営業活動である。
 塾説明会を開くのも営業活動。
 イベントにブース参加するのも営業活動。

 営業活動には、プル(Pull)型営業とプッシュ(Push)型営業がある。
 昔はプッシュ型オンリーだったが、現在はプル型が重視されている。

 プル型は、お客が自主的に情報を取得して行動するように促すスタイルである。
 プッシュ型はともすれば押し売りになりかねないので、企業イメージを毀損する恐れがある。
 プル型にはそのような心配が少ない。
 ネットやSNSの普及によりプル型を重視する企業が多くなった。

 だが、プル型は必ずしも万能ではない。
 お客の自主的行動に任せていたら、一生気づいてもらえない可能性もある。
 そこでプッシュ型も併用する必要が出て来る。
 前述の中学校訪問や塾訪問などは、向こうから来てくれと頼まれているわけではないので典型的なプッシュ型営業である。
 イベントでチラシを配布するのも、もちろんプッシュ型。

◆紙パンフはプッシュ型に必須
 紙のパンフレットは、プッシュ型営業に欠かせないツールである。
 塾訪問に行って、「サイトを見てくれ」というのは、どうも押し付けがましい。
 勝手にやって来て、サイトを見ろはないだろう。
 私だったら、間違いなくそう思う。

 その点、紙のパンフレットであれば、「ぜひご覧になってください」と、一歩引いた感じに持って行ける。
 それほど邪魔になるものでもない。
 まあ、受け取っておこうか、となる。
 サイトで見るのはそれからだ。

 紙のパンフレットには「一覧性」がある。
 目的の情報にたどり着くまでに何度もスクロールしたりクリックしたりする必要がない。

 サイト情報の場合、お客は順番を無視して、自分が必要とする情報を拾い読みする。
 そこにストーリー性はない。
 紙のパンフレットにはストーリー性がある。
 学校の理念や方針から始まって、教育の特色とその成果、学校生活の様子などが順を追って示されている。
 ストーリー性があった方が理解も記憶もしやすい。
 
 学校側としては、つまみ食いよりもコース料理を食してもらいたいわけだ。
 その点では紙のパンフレットが優れている。

 というわけで、現在の生徒募集スタイルがしばらく続くと考えれば、引き続き紙のパンフレットの有効性はあるのだ。
 大事なのは、使う場面や使い方、また、読まれ方を意識した作りにすることだ。

◆関連記事一覧
 パンフがらみのネタはこれまでに何度も書いている。
 今日の記事は、できるだけ過去との重複を避けたつもりだが、多少重なる部分もある。

 賞味期限切れのパンフを配るのはやめにしないか(2019年12月19日)

 学校案内パンフは最終兵器ではなく「最初兵器」である(2020年2月13日)

 学校案内パンフレット廃止、がその前にやっておくべきことがある(2021年6月26日)

 電子書籍は学校案内パンフレットのあり方を変えるかもしれない(2021年11月12日)

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