本日取り上げるのは地方の小さなニュースである。
 これを題材に「学校要覧」について語ってみる。

大学、企業名は不記載に 佐賀県教委「学校要覧」見直し 「個人特定につながる」(佐賀新聞 6月25日)

 「学校要覧」について、公立の先生には今さら解説の必要はない
 教務担当として作成に関わった方も多いだろう。
 通常、学校では教務部の仕事で、私も経験がある。

◆教務部の意味
 ここでいきなり脇道にそれるが、教務部とは進路指導部や生徒指導部などと並ぶ校務分掌の一つである。
 指導という語が付いていないことからも分かるように、生徒には直接は関わらない事務的な仕事が主となる部署だ。
 生徒の方も、進路指導部や生徒指導の先生のことは認識していたとしても、教務部の先生のことなど誰も知らない。そういう部署があることすら知らない。
 塾業界では、教務とは学習指導そのものを指しているらしく、「教務力に優れた先生」などという使われ方をする。
 世界が違えば、同じ言葉も別の意味で使われる。

◆「学校要覧」と学校案内パンフレットの違い
 「学校要覧」と混同されがちなのは学校案内パンフレットだ。
 学校案内パンフレットは、だいたいどこの学校でも作っている。
 公立小中のことはよく分からないが、高校では生徒募集用に必ずと言っていいほど作られている。
 A4カラー版で8ページから16ページ。
 私立だとその倍くらいのページ数がある。

 生徒募集用だから表紙はもちろん、写真や文章表現にもこだわる。
 私立は外部の制作会社に委託し、プロのデザイナー、カメラマン、コピーライターを使うなどそれなりに費用をかける。
 公立はそこまでの予算が取りづらいので、先生が頑張る。

 受験生や保護者、塾の先生方はじめ、外部の人が手にするのは、この学校案内パンフレットである。
 対する「学校要覧」は、きわめて事務的に作られた冊子であり、生徒募集には何の役にも立たないので、広く配布することはない。
 と言って、秘密資料や非公開資料というわけではない。
 なお、「学校要覧」の名で案内パンフレット的な冊子等を作り、公開したり配布している学校もある。

◆「学校要覧」が作られる理由
 広く配布する予定もないのに「学校要覧」を作るのは、その作成が法的に義務付けられているからである。
 学校案内パンフレットを作るかどうかは任意である。
 うちは作りませんという学校があってもいい。

 それに対し「学校要覧」は作らねばならないものである。
 学校教育法施行規則28条に「学校において備えなければならない表簿は、概ね次のとおりとする」とあり、作成が義務付けられた表簿類が示されている。
 一番知られているのは指導要録だろう。
 しかし、この中に「学校要覧」はない。

 では、どこにあるか。
 県立高校の場合、「埼玉県立高等学校管理規則」というものがある。
 これは「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地教行法)第三十三条の規定に基き制定されたものである。
 「埼玉県高等学校管理規則」の第26条には、「学校は、学校教育法施行規則第二十八条に規定する表簿のほか、次に掲げる第二欄の表簿を備え、それぞれ第三欄に定める期間保存しなければならない」とあり、この中に「学校要覧」が挙げられている。
 市町村立学校であれば、「●●市立小・中学校管理規則」というものがあるから、そこに示されている。

 これが、「学校要覧」が作られている理由である。
 法律(実際には規則だが)で決められているから作っている。
 ただ、それだけ。

◆「学校要覧」の中身
 あまり世間に出回っていないものだけに中身が気になる。
 内容は厳密には定められていないが、概ね次のような内容だ。
 ●沿革
 ●教育目標
 ●教育課程
 ●使用教科書
 ●年間行事予定
 ●年間指導計画
 ●校務分掌
 ●職員に関する調べ
 ●生徒に関する調べ
 ●校舎配置図
 特にどうってことない内容だ。

●結局何が目的なのか
 今般、佐賀県教委が問題にしたのは「生徒に関する調べ」の部分である。
 ここには「通学所要時間」や「通学方法」のデータがあり、学校によっては「市町村別居住者数」「出身中学校一覧」、そして「進路先一覧」などがある。
 その「進路先」を問題にした。
 新聞記事によると、「その学校から進学・就職した人数が少ない大学や企業もある。個人の特定につながりかねない」というわけである。
 誰が、どんな動機や目的で、どんな方法で特定するのだろうか。
 よく分からん。
 
 実際のところ、学校案内パンフレットやホームページには載っているわけである。
 だが、それは各学校が発する私文書である。
 それに対し「学校要覧」は公文書である。
 だからいけない。

 だが、個人情報保護というなら、パンフレットやホームページだって大いにまずいわけである。
 広く配布されることのない公文書の「学校要覧」とはわけが違う。
 学校の壁に貼り付けた横断幕や校舎にぶらさげた懸垂幕はどうなるんだ。
 本人同意の上だろうが、思いっきり個人名さらしてるぞ。

 要は教育委員会にクレームが来なければいい。
 「パンフやホームページは学校が勝手にやったことなので」と言い逃れできればいい。
 今のところ、そんなことぐらいしか思い浮かばない。
 だったら、条例、規則を改正して、「学校要覧」を作成義務のある表簿からはずのが近道ではないか。