参議院選挙が始まったが、高校授業料無償化など教育問題は争点にはなっていないようだ。
 高校の先生、特に私立の先生とお会いすると、はぼ確実に授業料無償化の話題となる。
 
 今回の降って湧いたような高校授業料無償化。
 無償化は徐々に進められてきたが、私立への支援金の増額や所得制限撤廃が一気に前進した。
 このスピード決着はなんなのか。
 
 私の理解では、少数与党である石破内閣が、通常国会で今年度予算を通すために日本維新の会の主張を取り入れたところから始まっている。
 自民党の政策にも、石破内閣の政策にもまったくなかったが、維新の予算案賛成を得たいがために、まったく考えていなかった無償化政策を推進することになった。国民民主党の政策を取り入れるより安上がりという計算もあっただろう。
 維新としても、地元大阪で推し進めてきた無償化政策により財政状況も厳しくなっていただろうから、国の支援金増額は願ってもないところだ。

 授業料無償化とは、文字通りタダになるわけではない。保護者の負担はなくなるが、その分の費用は、最終的に国民の税金で肩代わりさせる。
 つまり、無償化というと聞こえはいいが、新たな国民負担という面もある。
 いま現在、子供が高校に通っていたり、これから通うことになる家庭にとっては朗報かもしれないが、そうではない個人や家庭にとっては余分な負担になる。もちろん、他の何かを削って財源を捻出するから直ちに増税ということにはならないが、税の使い道の変更であるから、すべての国民に関わる問題である。

 授業料無償化のしくみ自体は、困窮する世帯の子供たちを支えるためのセーフティーネットとして機能する可能性は高い。しかし、問題はその適用範囲である。

 公立進学であれ私立進学であれ、その負担に耐えられるであろう家庭は対象外としてきたのがこれまでのやり方である。しかし、これを撤廃する。考えようでは高額所得者へのばら撒きである。そこまでしてやる必要があるのか。

 本当に支援が必要なのは、経済的に困窮し就学が困難な一部の子供たちだ。
 であれば、返済不要の給付型奨学金制度というやり方もあるわけで、何も一斉に無償化する必要はない。
 今回の無償化。あっという間の方針決定であり、公私の区別もなく所得制限もない無償化で本当にいいのか、これがベストなのかという議論がほとんどされなかった。
 ここに大きな問題がある。

 そして、これにより私立が有利になり公立の衰退につながるという心配が出てくると、今度はその対抗策として併願制を持ち出してきた。旗振り役はデジタル庁だ。行政のデジタル化を推進したいデジタル庁に格好の出番が回って来た。
 たぶん、偏差値による序列化を避け、高校の個性化・特色化を図りたい文部科学省としては諸手を挙げて賛成とは行かないと思うが、待機アルゴリズムを用いた合格者の振り分け自体は面白い試みではある。
 しかし、そんなことより、問題なのはいつの間にか無償化の話が併願制の話にすり替わろうとしている点だ。併願制は無償化とはまったく別次元の話であって、それとは関係なく進められるものである。

 デジタル庁が、かねて準備してきたシステムを無償化の流れに乗じて実現しようとしているのか。
 はたまた、併願制を持ち出して無償化の問題点から目をそらそうという一派がいるのか。
 いずれにしても、無償化は無償化、併願制は併願制で議論すべきで、ごっちゃにしてはいけない。