「真剣に考えなければいけないが、深刻には考えないようにしている」。トヨタ自動車社長・豊田章男氏の言葉(3月19日記者会見)。
 人物に対する評価や好き嫌いはひとまず措いておくとして、難しい局面においてリーダーが発するべきメッセージのお手本になるのではないかと思った。

 身分が保障されていた公務員時代にはなかったことだが、民間のサラリーマン時代は、景気が急速に悪化したり、市場のルールが突然変わったりなどで、「うちの会社、大丈夫なんだろうか。給料減らされるんじゃないか」と不安に慄くことがしばしばあった。
 そんな時は、いつも以上にトップの態度や発言に敏感になったものである。

 「想定内だし、すでに手は打ってある」。
 どういう想定してたのよ。どんな手を打ったのよ。と、ツッコミたいところだが、それよりもトップの自信にあふれた態度から得られる安堵感の方が大きい。
 「むしろチャンスである。飛躍の機会にしよう」。
 また働かされるんだろうな。と、ウンザリする反面、ちょっとばかり勇気をもらえる。

 難局にあたって、それをもっとも深刻に受け止めているのは、「長」という立場にいる人々である。
 「うちの社長(校長)、何も考えてないからな」って、あなた。何百人、何千人という社員とその家族、その他関係者の生活や人生が、自分の判断・決定で大きく変わっちゃうんですよ。何にも考えてないわけないじゃない。
 私は、幸か不幸かそのような立場に身をおいたことはないが、考えれば考えるほど悲観的になってしまうだろうと想像できる。

 だが、そういう不安と悲観の中で、皆に勇気と希望を与える前向きな言葉を発するのがトップの役割であろう。

 事態は現在進行形である。いまは答え合わせをしている時ではない。次々に解答用紙に答えを書き込んで行くしかない。